アートソムリエ
山本冬彦さんのお話。
「美術界は作り手と買い手のインフラを全く整備出来ていないですよね。」
と山本冬彦さんは語る。
山本冬彦さんは、29歳の時、購入したマンションの自宅に絵を飾りたいと思い「どうせ買うなら無名でも本物の絵画を」と銀座の画廊にて1枚の日本画を購入した事がきっかけでコレクターの道に入った。そしてサラリーマンでありながら現在は1100点以上もの作品をコレクションしている。現在は『アートソムリエ』と自称してアートユーザーの育成をするとともに、「個人メセナ」の薦めとして若手アーティストの作品を買ってあげることが一番の支援と説くなど、様々な活動を通して作品を買う楽しみを一般の人々の伝えている。
「美術界のインフラが整備されていないというのは、アートの生産者ばかり作っているが、アートのユーザーを育てていないということです。年間で全国の美大系大学・大学院からの卒業生は2万人に達するという数字がある。毎年毎年作家の卵がそんなに社会に排出され、作る側の人口は増えているのに、その作品を買う人や市場が、全く整備されていない。作品の供給過多に陥っている現状であるにも関わらず、その事に対して美術界からはなんらアクションを起こしていないのです。」
-そうですね。確かにそういった感じですね。
「そして、企業メセナなどもあるが作家に制作の場や発表の場を提供するという支援が大半で、買う人や市場を育成するような制度や政策は全くしていないですよ。それに昔なら、『絵描きになる』なんて言ったら、親兄弟から勘当される覚悟が必要だったですよね。それでも反対を何とか振り切って絵描きになっても、食べていけるのはごく少数だったのです。少数であるからパトロンやスポンサーも何とか確保できた。でも、今は少子化もあるのだろうけど、大学もどんどん入学させていく。大学って言うのはその道のプロを育成する場ですが、毎年2万人もの卒業生が作家として食えるとかアート関係の会社に就職できるのは困難です。特に作家として生きていくことは、買う人が少ないし、増やしていないのだから、どの作家も大変ですよ。」
-その現在の美術市場というのはどういったものなのでしょうか?
「今は、一部限定的ですがアートバブルです。中国や韓国などの外国資本の影響が大きいですね。しかし、アート好きというより投機目的が大きいので有名な作家や今人気の作品ばかりが動いています。それに、投機的な似非コレクターは自分の眼で判断して良いと思ったものを買うという事ではなく、肩書きや知名度が先行し、どれが値上がりしそうかという視点でしか見ていません。」
-つまり、アートバブルの恩恵は有名作家だけ?
「そうです。例えば、大企業がカレンダーを作るとなった時、企業イメージに合った良い若手の作品があったとしても、上役から『この作家ってどういう経歴の作家?』など言われてしまい結局は、誰もが知っている有名作家の作品になってしまったりするのです。わざわざ高い使用料をかけて・・・。しかし、若手の作家であれば使用料も安く済み、企業側も経費削減が出来るし、若手の作家もカレンダーという形で発表が出来る。そうなればみんなハッピーなのですけどね。また、作家側も昔の作家は「後世に名を残す作品を」という意気込みで制作していましたけど、今は生きているうちに売れて、有名になりたいと考える作家が増えてきています。つまり芸術家というよりアートタレントと見た方がいいかもしれません。従ってマスコミなどの露出を増やすとか外国で賞を取るとか、アートフェアで勝負する作家が増えているんです。そんな若手作家を狙って、現在のアートバブルの中では美大生の青田刈りが増えているのです。少し名のある美術評論家や美術ライターが注目の作家として記事にしますと、すぐに買い上げられてしまうような状況もあり、作品が急激に高騰するという状況も出ているので、私も文章を書く時などは気を付けています。」
-今後の活動として
「今、若手の作家からいろんな相談事が来ています。企画展のことや作家としての生き方などに関してなどです。しかし私は、作品を買い上げる事が若手作家への1番の支援だと思っています。『個人メセナ』と言っていますが、芸術家の作品を買って支援をしていく人が増えれば増えるほど活性化しますし、作家としてもやりがいが出てくる。もちろん、なんでも買えば良いということでは無くて、自分の目でしっかり見て気に入った作品を買うということですが。そういった「自立した眼」を持った人たちを増やしていきたいと思います。」