≪高村比呂希 著≫
 
 
 
 
 ある日、青柳慶子が早乙女恭子に言った。

「早乙女さん、貴女、この3月で大学卒業するんでしょう?」

「はい」

「だったら、卒業後のこともちゃんと考えなくちゃダメよ。私の秘書みたいなことをやって貰うのは嬉しいんだけど、生活をちゃんと確立しなきゃね」

「ご心配頂いてありがとうございます。でも私、今でもアルバイトしながら何とかやっていますから」

「そうじゃなくて、しっかりした所に勤めるつもりない?」

「いえ、先生のお傍で勉強させて頂くのが私の望みですから」

「そうは言っても、自分の力でしっかり生活することも、貴女の将来にとって大事なことよ」

「・・・?」

「もし、貴女さえ良かったら、私達の政党と大変近い関係にある『生協』に勤めてみないかなと思って。そこなら直ぐにでも紹介出来るし、良い人材がいたら是非と言われてるの」

 だが、恭子の表情は冴えない。

「先生が仰るなら、そうしますけど・・・」

「私の所には、生協が休みの日とか、昼間のお仕事が終わってからいつでも来たらいいよ」

 恭子の顔が輝いた。

「あぁ、そういうことでしたら、喜んでそうさせて頂きます。先生からもうここには来るなと言われたのかと思っちゃって」

 青柳は更に続けた。

「それとね、私がそうだから言うんじゃないけど、阪大法学部卒という肩書きじゃ何の力も発揮しないけど、弁護士は効果てきめんよ。
正直言うけど、若くして議員候補にって、革新党から推されたのも弁護士だったから。貴女も司法試験に受かって弁護士資格だけは取っておくことを勧めるわ」

「司法試験なんてとても。学生運動ばっかりでまともに大学の授業も受けてない身ですから」

「阪大法学部に合格した実力があれば、あとは努力次第。貴女なら2~3年頑張れば受かると思うけど」

「私なんかでも何とかなりますか?」

「もしその気があるなら、私の先輩がやっている司法試験専門の教室も紹介するし、私が時間のある時、コーチしてやってもいいのよ」

「それは申し訳ないので、専門教室を紹介して下さい」

 そんな遣り取りをして間もなく、早乙女恭子は教室に通い始めた。3月の大学卒業後はこれまた青柳慶子の口利きで生協に勤め始めた。

 恭子は青柳によって、これまでとは全く違う人生に導かれている自分を感じていた。滝田教授を研究室に訪ねてから半年、想像だにしなかった自分の人生の大転回に対して、感謝と喜びと不思議さが入り混じった感慨を持ちながら、恭子はやれるところまで目一杯頑張ってみようと決意したのだった。