≪高村比呂希 著≫
【橘】「憲法9条は日本が世界に誇れる平和憲法である。戦争を放棄し世界平和に貢献して行くことをもっともっと世界にアピールして、世界をそういう方向に導く先導役を果たすためにも改正すべきでない」
【安田】「9条を改正して普通の国になり、戦争も出来る国として世界と渡り合おうという輩がいる。そういうグループの野望を挫き、9条を死守すべし」
【兵頭】「憲法9条さえ守れば平和が守れると考えるのは、極めて幼稚なメンタリティだ。日本の憲法でいくら不戦を誓っても、攻め込んで来る敵がいれば、戦うのだし、政府見解と称する9条解釈で、持たない筈の軍隊は持つわ、自衛隊海外派遣(派兵)はするわ。最近では集団的自衛権も9条はOKしてるなんて言ってるよ。それじゃまるで9条で放棄したのは戦争ではなくて、平和憲法だ」
【金子】「そうですよ。今の9条はただの空文。抜け殻。お題目。実際の自衛隊はきつい訓練に耐えながら、日本を守るために頑張っているのに、9条のために世間の風は自衛隊を私生児扱いだ。何で国を守る人間達に肩身の狭い思いをさせなきゃいけないんですかね?」
【安田】「それは歴代政府が悪いんだよ。明らかに憲法9条に違反してるのに、米国に言われて自衛隊作っちゃったから。金子君には悪いけど、自衛隊は違憲なんだから、即刻解散すべきなのだ」
【金子】「それはないでしょう。人的国際貢献とか何とか言われて、自衛隊はアフガンにもイラクにも危険を押して行ったんですよ。みんなが国内でのうのうとしている時にね。インド洋での給油だとか、ソマリアの海賊排斥とか。世界から感謝されて。自衛隊が日本の外交を一手に引き受けているようなものです」
【兵頭】「憲法は国民みんなのものです。中学生にも理解出来る憲法であるべきです。国際紛争の解決手段として戦争も軍備も永久に放棄すると謳っているのに軍隊がある。可笑しいでしょう。日本領海内の防衛戦だけは認めると言うならそういう風に条文を改めるべきです」
【橘】「日本人数百万人の血と大量のアジア人の血が作り上げた憲法9条は、あの悲惨な過ちを2度としてはならないという強い決意を示すもの。それは決して変えてはならないのも」
【兵頭】「不戦の決意の核心は、2度と他国に侵入する戦争はしませんということじゃないんですか? それならそういう侵略戦争は永久にしない条文に改めれば宜しい。その逆の、侵入された時の戦いも禁止するなら、国は国民を守らない世界唯一の国となってしまいますよ。国家の体を成さないように規定する憲法なんて、あり得ません」
【安田】「兵頭君や金子君は9条と現実が正反対になってしまっていると言うが、それでも9条が日本の暴走を抑止していると思う。多くの人が現実は、米国一辺倒の政府が米国の意向を受け入れた結果だと知っている。現実が憲法違反だと言うこともね」
【金子】「だったら、国民投票で民意を問うべきですよ。国民に聞くべきです」
【兵頭】「過去60年間も、また今後もずっと国民投票を避け続けるのは、与野党政治家の心のどこかに、一般大衆を愚民視する、思い上がりを感じますね」
議論はどこまで行っても終わらないのであった・・・・・・・。
しかし、まあ、その頃は、何の責任もない気楽なディベートだったし、そんな激論を戦わせながら酒を飲むのが何より楽しみな連中だった。
だが、何年かすると、本当に世界経済は酷い状況に陥り夫々のメンバーの実務にも悪影響が出始めると、前のように気楽に議論するだけでは収まらなくなって行った。
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2007年の夏、米国発のサブプライム・ローンの焦げ付きが膨大な額に及ぶことが徐々に明らかになり、その証券化商品を大量に購入していた欧州の主要銀行で一気に経営悪化が表面化したことが報じられた。
21世紀に入って米国は住宅バブルと言われるほど、住宅販売が好況を呈していた。しかしそれも、年収から見て購入可能顧客への販売が一巡すると、住宅バブルははじける運命にある。バブルがはじけてしまうと、米国は再び経済が落ち込むなで、不動産業界も金融機関も住宅バブルを維持しようとした。それが低所得者層への住宅ローンの貸付けだったのだ。
悪いことに、最初の何年かは返済額をぐっと抑え込んだ仕組みだったから、低所得者層も返済出来、問題は表面化しなかった。だが、その期間が過ぎると、それまでの何倍かの返済を迫られる。当然彼等には支払い能力はない。サブプライム・ローンの殆どが焦げ付くのは時間の問題だったし、焦げ付きは一気にやって来る。それが2007年の夏だったと言う訳だ。
焦げ付き額は、今後1年以上に亘って増え続け、最終的には数兆ドル(日本円して数百兆円)に達するとみられている。日本のバブル崩壊で出来た銀行の不良債権は150兆円というから、その規模の深刻さが分かろうというもの。
日本経済も、銀行への公的資金導入などにより、やっと不良債権を始末し、バブル崩壊から10数年振りに明るい兆しが見えて来たのも束の間、再び株価の下落と共に、不況に逆戻りの様相となった。
更に酷いことに、小泉首相の後を受けて1年前の2006年9月に首相になった安倍普三が、世界不況に対するしっかりした経済対策も打たないで政権を投げ出した。続く福田首相も悪化する経済をどうすることも出来ず、麻生太郎に首相を禅譲した時は、「リーマン・ブラザーズ」倒産で一気に世界恐慌に突入、日本はあの失われた10年よりももっと酷い経済状況に立ち至ったのだった。その麻生政権も解散総選挙で敗れ、1年持たなかった。日本経済が過去最悪に陥っているのに、全く政治が当てにならないのだから何をか言わんやである。
何のリーダー・シップも取れず、何も出来ないと悟ると1年で政権を簡単に投げ出してしまうこういう日本の政権を見てPJJは、「無責任政権」「危機に逃げ出す政権」「国民を守らない政権」と言い合った。
そしてメンバーは、2008年の1年間を使った米国大統領選をつぶさに見、2009年2月のオバマ新大統領の就任演説を聴くに付け、日本のナンバー・ワン指導者との資質の違いを思わずにはいられなかった。みんなの思いは、「何故これほど違うのか?」といった今更ながらの疑問で一致したのだった。
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