≪高村比呂希 著≫  
 
 
 
 
 テーマは、下記の通り7つ(提言7か条)に絞った。

① 大統領制
② 憲法九条
③ 地方分権
④ 環境立国
⑤ 農業再生
⑥ 社会保障
⑦ 平和貢献

 橘の担当は、①大統領制と③地方分権。安田の担当は④環境立国と⑤農業再生。残りの②憲法九条⑥社会保障⑦平和貢献が兵頭一樹の担当となった。①②③の実現にはいずれも現行憲法の改正が必須となる。当初憲法改正に慎重だった橘も安田も、日本を救うためには避けられないとして、憲法改正を決断した。このような経緯を辿って、原案執筆に移行した。

 週一回のPJ5会合を定例化しておき、①~⑦について、第一原案が出来次第、直近の会合に掛けられた。

 ①大統領制ついては、既に橘の主張がほぼ全員の賛同を得ていることから、原案を巡る議論は、提言の表現の仕方と、官僚をどう大統領府の意向に沿わせるかという点とに集中した。

 表現については、日本が最悪期にあることを背景に、「強力な指導力と強靭な精神を持ち、国民に対して責任を果たすことの出来る日本のリーダーを作るために、直接選挙制による大統領制に移行すべきである」とした。各党の予備選挙を含めて選挙戦の期間は米国に倣って1年間とし、思想的に偏った人物や、能力的に劣る人物などが淘汰される充分な時間を当てるものとした。

 各省庁の官僚を如何に制御するかについては大統領府に全ての人事権を集中することを骨子とした。各省庁の大臣は省庁のトップである前に、大統領府の重要なメンバーであり、彼等のボスが大統領であることが謳われ、大統領府の中に執務室を持つ。つまり、大臣は省庁のトップと言うより、大統領政策チームのメンバーという役割が第一義のポストなのだ。各省庁には副大臣が詰める。官僚の人事権は一手に大臣(大統領府)が握る。

 ②憲法九条では、PJ5内も意見が割れており、必ずしも一つに纏まっていた訳ではないが、兵頭は、PJ5の中に軍国主義の復活を企図する人間はいないのだから、そういう趣旨ではない9条改正は可能だとして、提言を纏めた。

 その趣旨は、「他国に進軍し侵略することは永久にこれを禁ずる。領海内・領空内・領土内に敵国が侵入した時のみ、専守防衛のための武力行使としてこれを認める」というもの。これにより晴れて自衛隊は認知され、個別自衛権も担保される。

 また、これにより、友好国や同盟国の敵国軍または敵国の兵器が、日本の支配地域を通過する時、領域外への退去を勧告しても従わない時、敵国の侵入と見做して攻撃出来るので、結果的に、自国領域内に限定された集団的自衛権の行使が認められる。

 この兵頭原案に対しては、安田と橘が意義を申し立て、かなりの時間を使って議論となった。しかし、金子にしろ箱崎にしろ、若手から見れば、憲法に違反する現実を放っておく大人達の無責任の方こそ強く感じてしまう。また、平和憲法に固執して、現実を見ないようにしている、或いは、現実が見えない世代の不思議さを感じてしまう。果てしなく続くかと思われた憲法9条改正論議だったが、他国への侵略戦争を永久に放棄することが担保される点を是として、橘が譲歩した。安田もあの戦争の反省が活かされるということで渋々ながら兵頭原案は採用された。

 ③の地方分権に関しては、文字通り明治以来の中央集権国家体制を大転換する。住民の暮らしに直結する政策は地方自治に任せ、国として対応しなければいけないことだけを国の仕事に分担し直す。

 その真の趣旨は、中央の巨大な官僚機構を解体し、人物金を地方に移すことである。それにより、地方の活性化・産業振興を思い切ってやれるようにする。

 但し、既存政党が言うような、今の県より大きい地方の単位で括る「道州制」には拘らない。地方分権の単位を大きくすることと、小さくすることでは、必ずしも前者が良いとは言えないからである。PJ5は、先ずは今の都道府県単位で地方分権制をスタートすることを提言することにした。

 ④環境立国というテーマは、過去の技術立国日本の21世紀バージョンである。戦後の日本の国際競争力は、繊維に始まり、造船・家電・自動車・ITと時代と共に対象が変わっても、一貫して技術力でGDP世界2位の国にまで這い上がった。

 今後の国際競争力の技術方向性は間違いなく環境技術である。太陽エネルギーを初めとするクリーン・エネルギー開発を始め、公害対策・土壌水質汚染対策・淡水化技術・脱ガソリン車等々、各企業が保有する技術は今でも世界的に水準が高い。これを国策により、より高め普及促進することで新しい産業を隆起させ、日本経済の新たなる発展と世界への貢献に繋げる。以上が環境立国というテーマの論旨である。

 ⑤農業再生。生協の創業期からタッチしてきた安田にとって、この問題は云わば専門分野と言って良い。彼の問題意識は、短期間に需給率40%というところまで落ちてしまったことと、牛肉問題や餃子問題など、食の安全が脅かされている現状という2つである。

 「有機野菜を守る会」や生協関係者が等しく言う「地産地消」。この意味するところは、地域で生産し同じ地域で消費するということである。昔はそれが当たり前だった。それが農業人口の激減と高齢化により、地域内の消費量を地域で賄えなくなって行った。遠くから運ぶようになる。更に関税引き下げの外圧と、生産量の不足も重なり、遠く外国から値段の安い食料を大量に船で輸入するようになる。

 今、輸送コストを掛け、エコを犠牲にし(石化燃料)、安全を犠牲にして60%を輸入に頼る現状を、再び、「地産地消」に変え自給率80%を実現することを趣旨とする内容だ。遊休地を再び生産農地に変え、農業の企業化を進め、失業者達の有力な就労先に出来れば一石二鳥だ。安田の精力的な執筆活動により、7テーマの中で最も早くPJ5の審議に掛けられたのはこのテーマであった。