≪高村比呂希 著≫
2010年2月から3月末まで、2ヵ月間弱、PJ5の喧々諤々の議論がなされ、漸く成案に至った。PJ5の運営は、食事や酒代は橘持ちではあったが、全員無報酬の私的集まりであったが、週1回の定例会だったものが、成案に漕ぎ着けるために、最後は連日の追い込みで、遂に完成させたのである。
その最終日、橘はみんなに2つのことを尋ねた。1つ目の質問。
「この7ヵ条は、詰まるところ、日本をどう変えようとするものなのか? 誰か一言で言ってみてくれないか?」
兵頭がすかさず答えた。
「戦後体制からの脱却、乃至、米国依存から真の自立国家へ」
「なるほど。けれども、我々の提言は、日米安保条約の破棄までは踏み込んでいないから、それは言い過ぎではないか?」
「確かにPJ5では、日米安保条約について、継続と破棄とでの国益のプラス・マイナスが読めず、初期の段階で議論のテーマから落としました。そういう意味では、我々の提言も、安保条約は当面継続となってしまいますね」
「そうなんだ。これほど日本の経済や国力が地に落ちている時に、米国との特別な関係を清算することが、どう日本にとってプラスに働くのか全く見えない。我々に自信が持てない提言はすべきでないと考えたからね」
例によって金子が発言した。
「中央集権国家から、真の国民主権国家へ。もって日本と世界を守る提言7ヵ条。どうですかねぇ?」
「悪くないね。ちょっと長いけど」
最後に安田が纏めた。
「我が国と世界を救う日本再生提言7ヵ条、で良いのでは?」
「いいねぇ。どうですか皆さん?」
全員異議なし。橘は2つ目の質問に入った。
「それでは、7ヵ条のタイトルが決ったところで、今後、この提言を政治に活かすにはどうしたら良いのか、皆さんの意見を聞きたい」
安田克彦が口火を切った。
「どこの政党も、多分、ここまで思い切った提言を受け入れるだけの許容量がないと思う。そこで、本を出版するとか新聞に意見広告を出すとか、そういう方法で少しずつ啓蒙して行くのがいいのではないかなぁ」
「それじゃあ、いつ実現するのか、気が遠くなる話だよ」
と、金子順が応じた。兵頭一樹が言う。
「勿論、安田さんが言われたことに加えて、インターネットを駆使して、我々の提言を知らしめて行くことはやるんだけど、テレビで橘さんがこの提言7ヵ条をしゃべる機会があったら、一発で話題沸騰なんだけどねぇ。箱崎さん、何とかならない?」
「テレビでそういうのを取上げるのは難しいと思います。報道の中立性というのがありますから。
それから、安田さんのお言葉ですが、既存政党でも政権党だった自民党や、現政権の民主党は難しいと思いますが、革新党はどうなんでしょうか。唯一憲法9条死守という革新党の主張と相容れませんが、その他は充分に受け入れ余地があると思いますが」
「箱崎さんね。20年前、私も日本革新党員として、県議会議員をやってたので、よく分かるが、革新党としては、憲法9条を守るために、他の条文改定も含めて憲法改正には一切反対の立場なんだよ」
安田は革新党は我々の提言に聞く耳を持たないと言い切る。兵頭が続ける。
「憲法9条だけでなく、大統領制も地方分権も、場合によっては平和貢献も憲法改正が必要になるから、革新党は難しいかな」
箱崎綾と金子順は安田の見解に不満そう。金子が言った。
「安田さん。幾ら野党だと言っても、国民から選ばれた政党なんでしょう? 日本が沈没して行くという時に、相変わらず原則論だけ唱えて、この国を本気で救おうともしない政党なんて、害毒以外の何者でもありませんよ」
「私も、金子さんと同意見です。革新党こそ日本を救う政党であることを、今、示すべきです。でなければ、改憲阻止というイデオロギーでがんじがらめになって、日本沈没をただ眺めていただけの政党として、後世に恥を晒します」
箱崎の言葉を受けて兵頭が安田に聞いた。
「安田さん。どうですかねぇ、彼等の言うのも間違いじゃないと思うし、一度当たってみる訳には行きませんか?」
「分かりました。皆さんの総意として、革新党にこの提言を持ち込むべきだと言うのであれば、早速当たってみましょう。但し、折衝結果が悪ければ、革新党は諦める、ということで宜しいですね?」
黙って聞いていた橘が、苦しい顔を浮かべて言い難そうに話し始めた。
「私個人としては、革新党にこれを持って行くのは、正直、避けたい。何故と問われると大変辛いことなのだが、党首の早乙女恭子は、高校の頃の友達だからだ」
これにはみんな驚きながらも、だったら、寧ろ話が早いではないか、と無言で詰め寄った。
「理解出来ないだろうね。正直に言おう。高校から大学2年の夏まで僕達は恋人同士だった。どういう関係だったかは想像にお任せする。だから、今更彼女の前に現れたくないし、彼女にしてもいい迷惑だろう。だから、革新党にこれを持って行くのは勘弁して貰いたいのだ」
これに対して珍しく兵頭が強い調子で橘をなじった。
「橘さん。私等は今のままの無策な日本にしておいたら、本当に衰退あるのみだと思うからこそ橘さんに着いて来た。こう言っちゃぁなんだが、昔の恋人だったとかなかったとか、そんなことはどうでも良いことで、個人的感情の前に大事が翳むような橘さんだとは思わなかった。正直がっかりだ」
革新党に持って行くことに慎重だった安田までが言った。
「他の政党、例えば長いこと政権政党だった自民党に持って行って、受け入れられたとしても、今の苦境に追い込んだ自民党が今更何を言っても誰も聞かない。現在の政権与党に持って行っても、混乱を恐れて、精々、社会保障と環境立国くらいしか取り込まないだろう。
私も実は、既存政党に持ち込むとすれば、革新党だと思っている。革新党が本気で日本を救う気になれば、彼等自身の大きなチャンスになると思う。あの党に、ここまで纏め上げたPJ5の情熱をぶつけてみる価値は充分あると思う。橘さん、私ごとはこの際忘れましょう」
金子は何も言わないが、兵頭と安田が言ったことで全て代弁してくれたと思っている。
ただ箱崎綾だけは、他と違い、橘とあの早乙女恭子が昔恋人同士だったと知って、何故か心がざわつくのだった。







