≪高村比呂希 著≫
3日後、PJ5は重大な決議をしようとしていた。橘はメンバーに語り始めた。
「既存政党に我々の意見を反映させて貰おうと思ったのが大間違いだったことに気付かされた。我々の日本再生論は、憲法とか制度とか、現在の仕組み全ての見直し・再構築が趣旨だから、それは現在の既存政党の見直しも例外じゃなかった。
一旦は既存政党をも否定しなければいけないのに、それを頼ろうとしたのは、自己矛盾だった。我々の思いを取上げられるようにするには、我々自身が社会に訴えて行くしかないと思う。これが、この3日間、私が考えに考え尽した結論だ。みんなの意見を聞きたい」
橘のこの問いに最初に口火を切ったのは例によって金子順だった。
「橘さんの言われることは、政治の世界に打って出ようということですよね。それなら大賛成です。やはり、喩え既存政党に我々の提言が受け入れられたとしても、それが彼等に都合よくデフォルメされてしまっては、日本再生はなりませんからね。我々自身が人々に直接伝えるのが一番だと思います」
「アメリカでの経済記者としての私の武器はインターネットでした。是非とも、インターネットを使った発信を工夫して、輪を広げて行けたらと思います」
と箱崎綾が発言すると、兵頭がそれに被せるように言った。
「インターネットも大事だけど、団塊世代以上の年齢層には従来手法も大事だな。新聞雑誌への意見広告とかチラシとかのことだけどね。老後の不安に対して、我々の提言を採用すれば、こうなりますよ、とね。老後の不安が若い人達の少子化の一つの理由でもあるからね」
現役時代の兵頭の仕事は正にコンピューター・システムなのに、アナログ情報の価値を説くのだから面白い。そして続けた。
「世間に、我々の考えたことを知ってさえ貰えればPJ5の目的の半分が達成出来たようなものです。先程の橘さんのお話は、橘さんが今度の参院選に出馬するという風に理解しました。
あらゆるメディアを使って我々の提言を伝えながら、橘さん自身が街頭で語り、賛同者を増やして行く。元はこんな小さな集団だけど、参院選当日までには大きなうねりになるよう人事を尽くしたい」
最後に安田が言った。
「橘さん、やりましょう。私も出来るだけ各市民団体やNPO組織などに働きか掛けて、橘さんの講演会開催や応援の依頼に動いてみたい。橘さんの出馬、大賛成ですよ」
「皆さん賛成して頂いてありがとうございます。ですが、本当に皆さんに選挙参謀をやって貰うとなれば、時間的に何かと皆さんのお仕事に支障が出ると思います。無理のない範囲でお願いしますと言いたいところですが、そうも行かない。本当に皆さん宜しいのでしょうか?」
口々に、何とか遣り繰りして、やって行く、ここまで来て引き下がれないなど、橘と行動を共にする声が全員から上がった。
「皆さんには本当に感謝します。自分1人でも立とうと決意しましたが、それではPJ5全員で戦って行きましょう。
では、早速、私達の最大の問題から入りますが、それは何と言っても選挙資金のことです。選挙に出るためには、これが私達の決定的なハンディキャップです。
しかしながら、昨年の新政権発足後、インターネットでの選挙資金集めや政見発表が解禁になっていますので、これを大々的に活用したい。箱崎さん、この方面の作戦をお願い出来ますか?」
「勿論OKです」
「安田さん、市民連合の皆さんの応援は何としても仰ぎたい。責任者と会えるように手配して頂けますか?」
「同じことを考えていました。真の生活者・市民のための政治、このために、市民連合は人・物・金の支援ということを行っているから、是非、会って貰えるようにします」
「兵頭さんには申し訳ないけど、立候補して活動していくための当局への手続き全般、並びに、全体スケジュールその他、今後の活動上必要となる事項全てを調査の上、決めていって貰いたいのですが、いいですか?」
「この中では100%時間が割けるのは私だけだと思うので、任せて下さい」
「最後に、金子君にはあらゆる名簿類を収集し、電話入れの準備をして欲しい」
「了解しました」
「さて、私の出馬について、皆さん、快く賛同して頂きましたが、我々には組織もない、スポンサーもいない、知名度もない。この三重苦を承知で、選挙の素人5人で戦うことを決めたのです。しかも、本業を持ちながら戦うというのは並大抵のことでは立ち行かない。
それを承知の上で敢えて言いますが、客観的に見て、こんな条件下で選挙に当選するなんてことは、100%あり得ないのは子供でも分かることです。
大変言い難いことですが、私の本音の本音は、選挙戦を通して私達の『日本再生7ヵ条』を国民に知って貰うことが目的であり、当選することが目的ではないということです。立候補するかしないか随分迷いましたが、そう思ったら、スーッと力が抜けて出馬の決意が出来たのです。
日本が本気で変わるための起動操作を行う。それが目的の立候補です、自分自身の覚悟を込めて、これが私の正真正銘の『ラストラン』だと表明しておきたいと思います。
箱崎さんや兵頭さんの言うように、ありとあらゆる手を使って、私達の提言をこれでもかと言う位に、人々の目に触れるようにして行きたいのです」
メンバー達は、橘の出馬の目的が、当選することではなくて、我々が精魂込めて作り上げた提言7ヵ条を、何としても人々に知って貰うこと、それが最大の目的だという橘の気持ちの吐露により、誰もが抱いていた最大の疑問も解けて、みんなの表情も明るく和やかになった。
参院選まであと3ヶ月に迫っていた。
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