先回のシネマ特集は、女性の強さを強く印象付ける最近の映画三作を紹介したが(「いもたこなんきん」なシネマ ~ああ母は強し!~」参照)、今回は男の生きざま、それも実在の人物、実話を基にした最近の映画を、紹介したい。

最初は、『グラディエーター』の名匠、リドリー・スコット監督、二大オスカー俳優の「デンゼル・ワシントン」、「ラッセル・クロウ」主演の「アメリカン・ギャングスター」。切れ者で、絶対に尻尾をつかまれない黒人麻薬王を無頼の刑事が追い詰めるという、1970年代のニューヨークを舞台に、実在した伝説のギャング、「フランク・ルーカス」の半生をモデルにした骨太の男のドラマ。
「デンゼル・ワシントン」扮する、ストイックで、家族を大切にし、求道者のような生活をおくる麻薬王。一方、女好きで、妻から離婚訴訟され、家庭生活はまったく破綻し、ワイロをもらわなかったため警察組織からもつまはじきされている、「ラッセル・クロウ」扮する一匹狼的刑事が麻薬王を追い詰めていく。最後は家庭、ファミリーを最も大事にする信条をもつ、麻薬王がそれが弱点となり、逮捕され証言により、組織は崩壊する。麻薬ビジネスの新システムの構築や、当時のベトナム戦争真っ只中のアメリカの情況、世相にリアリティと説得力があり、さすが「リドリー・スコット」と感じさせる骨太の見ごたえのある作品である

次の作品は、「潜水服は蝶の夢を見る」。「ジュリアン・シュナーベル」が監督を務め、主人公を演じるのは『ミュンヘン』の「マチュー・アマルリック」。
フランスのファッション誌「エル」の編集長として活躍する人生から一転、脳梗塞(こうそく)で左目のまぶた以外の自由が効かなくなってしまった男の実話を映画化。
「ジャン・ドミニク・ボビー」。「エル」誌編集長、42歳、3児の父親。突然倒れ、体の自由を失い、動くのは左目のみ。意識を取り戻した男の眼。その視界の映像から映画はスタートする。全身麻痺の主人公の狭い視界を映した映像は、窮屈と思いきや、詩情が溢れ、斬新で効果的。唯一自由になる左目の瞬きでコミュニケーションをとる術を覚えた彼は、自伝を書き上げようと決意し、20万回を越える瞬きで自伝「潜水服は蝶の夢を見る」を書き上げる。不自由なカラダを「潜水服」に閉じこめられたようだと喩え、その想像力と記憶の自由な羽ばたきを「蝶」と喩えた彼の自伝は、世界31カ国(日本でも講談社から出版されている)で出版され、フランスでは大ベストセラーとなった。人間の持つ可能性と素晴らしさ、生きることへの愛情と讃歌。カンヌ映画祭、ゴールデン・グローブ賞、2008アカデミー賞などいくつもの映画祭でノミネート、受賞をした感動の映画。これも奇跡とも言える一つの「男の美学」の形か。

「明日への遺言」。第二次世界大戦終了後、B級戦犯裁判をたった一人で戦い抜いた岡田資(たすく)中将の生涯を描く感動作。大岡昇平の「ながい旅」を原作に、『博士の愛した数式』、『雨あがる』の小泉堯史監督が構想15年をかけて映画化。敗戦直後の混乱の中で自身の責任と信念を貫き通した岡田中将を、「藤田まこと」が熱演する。
最初は、連合国=戦勝国による一方的な戦争裁判の不条理さを告発する類の映画かと危惧していたが、見始めてそんな心配は吹き飛んでしまった。ストーリーは、戦争末期に名古屋を無差別空襲し、撃墜され落下傘で降り立った米軍捕虜を処刑した責任を問われ、B級戦犯として裁判にかけられた岡田資中将。この裁判を彼は、「法戦」と定義し、「一般民衆への無差別爆撃の責任は誰が負うのか、命令により処刑を実行した部下の責任は誰が負うべきなのか」と堂々と信念を主張し、戦勝国アメリカによる法廷を戦い抜き、すべて一人で責任を負い、甘んじて死刑判決を受ける。その毅然とした態度や真摯な人間性に米人の判事、検事、弁護士も心をうたれ、「復讐は罪にならない」という米軍規律を持ち出して救いを差し伸べるが、「復讐でなく処罰である」と一蹴する。最近壊れかけている日本人を見るにつけ、また表面上の平和や豊かさを甘受している日々の生活を思うにつけ、襟を正して見るべき映画である。「月がきれいだなあ」とつぶやいて、淡々と刑場に赴くラストのシーンにながれる「加古隆」の音楽も秀逸であった。
「男の美学」と聞くと、男の専売ではないのだが、どうしてもこのアルバム、この曲が脳裏に浮かぶ。「ビリー・ホリディ」作詞、「マル・ウォルドロン」作曲、「Left Alone」。
ジャズ・ヴォーカル史上最高の女性歌手といわれたビリー・ホリディ。彼女のピアノ伴奏者をきわめた「マル・ウオルドロン」が、ホリディの死後に曲をつけ、捧げた追悼アルバムだ。
タイトル曲の痛切な情感の表現は、ジャッキー・マクリーンの名演奏としても高く評価されている。録音されてから半世紀を経ていまなお「レフト・アローン」が日本のジャズファンに、愛され続けてきたのも、マルの哀しみをジャッキー・マクリーンがサックスで奏でるこの名演奏による。マルが、彼女の死に捧げた追悼曲、その哀しみが「男の美学」として切々と伝わってきます。
レフト・アローン
マル・ウォルドロン・フィーチャリング・ジャッキー・マクリーン / / EMIミュージック・ジャパン
ISBN : B00005GKG6
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私がこの曲に傾倒した青春の一時期への挽歌でもある。
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