私がボサノヴァに結構夢中になっていることは、このブログでもずいぶんと取り上げたのでご承知のことと思う。やっぱり惚れた「男唄」のひとりはどうしてもボサノヴァからとなってしまう。
「ジョアン・ジルベルト」。ボサノヴァの創始者A.C.ジョビンと並んで「ボサノバの法王」と称されたアーティスト。ギター一本を伴奏に、ささやくように、語るようにうたう、あのいわゆる「ボサノバ唱法」は彼によって確立されたといっていい。その彼の唱法の完成された形を、「ジョアン 声とギター」に見ることが出来る。全盛期をすぎ、70歳近い、2000年発表の作品であるが、まさにタイトル通り、ジョアンの声とギターのみで奏でている逸品のアルバム。サウダージ(郷愁)とはこのこと、シンプルとはこのこと。このアルバムは「カエターノ・ヴェローゾ」のプロデュースによって発表されたことも特筆に価する。
JOAO VOZ E VIOLAO
Joao Gilberto / / Universal
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1931年ブラジル北東部バイーア州に生まれ、10歳までそこで育つ。彼もまた父にもらったギターに夢中になり、学校をやめ、リオ・デ・ジャネイロに出て、音楽で生きる決心をするが、まったく売れず、マリファナ中毒になり、友人の家を転々とする苦悩の日々が続く。やがて姉の家に居候生活を始め、一日中バスルームに閉じこもりギターを弾きながら歌を歌い続ける。そんな壮絶な生活の中からサンバのリズムをガットギターだけで表現する、「バチーダ」とよばれる独特の奏法を編み出す。その後、ジョアンと出会ったA.C.ジョビンは、その声とギターに惚れこみ、ジョビンとヴィニシウス・ジ・モラレスの手になるボサノヴァの源流とも言われる名曲、「想いあふれて(Chega de Saudade)」の録音に参加する。まさに、ボサノヴァ胎動の年1957年7月のことであった。(「音楽の誕生 ~ボサノバのルーツを知って~」参照)
かの我が最初のミューズ、「アストラッド・ジルベルト」は、かって彼の奥さんであり、1964年アストラッドが英語で歌った「イパネマの娘」が世界中で大ヒットする。これが原因かどうか知らないが、程なく二人は離婚し、これが契機となってアストラッドは歌手としてひとりだちしていくことになる。
ジョアンも今年もう77歳。2003年に72歳での初来日を始めとして、今までに何回かの来日を果たしているが、多分最後の来日であろうといわれたのが、2006年11月である。来日時のコンサートのライブ盤はそのたびに出ているが、初来日2003年9月12日の東京国際フォーラムでのジョアン・ジルベルト初来日の臨場感たっぷりのライヴ盤をここではあげたい。人生のある極みまたは境地に達し、それが凝縮され、完成された「弾き語り芸術」といってもいいライブが展開される。
ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー
ジョアン・ジルベルト / / ユニバーサルミュージック
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そして「カエターノ・ヴェローゾ」。「ジョアン・ジルベルト」の後継者と目され、2000年にはジョアンのアルバム「声とギター」のプロデュースもした「カエターノ・ヴェローゾ」。実は、そのことを聴かされても、私は「カエターノを聴いてみたい」という思いに駆られることはなかった。「ブラジル音楽界のポップアーティスト」、「エレキギター、サイケデリック・サウンドでブラジル音楽界に革命をもたらした男」などという彼を表わすコピーを見るたびに、かえって足が遠のいていってしまった。それがある映画によって、大きな衝撃を受けた。その映画は、昨年は「ボルベール」で大きな感動を与えた、スペインのペドロ・アルモドバル監督の傑作で、2002年公開の「トーク・トゥ・ハー」であった。主人公の一組の恋人たち、フリーライターと女闘牛士の逢瀬が「カエターノ・ヴェローゾ」のライブであり、画面に流れる悲恋の果ての死の嘆きを、鳩の鳴き声に託す「ククルクク・パロマ」の唄に鳥肌がたつのを覚えたほどである。これが最初の「カエターノ」との出会いであった。
トーク・トゥ・ハー リミテッド・エディション
レオノール・ワトリング / / 日活
ISBN : B00008WJ2F
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「カエターノ・ヴェローゾ」は、1942年8月生まれ、65歳でほぼ私と同世代。彼もまた、ジョアンと同じブラジル・バイーア州に生まれ、ボサノヴァ歌手として音楽キャリアをスタートさせた彼は、やがてビートルズなどの影響を大きく受け、ブラジルのポピュラー音楽と欧米のロックンロール、さらに前衛音楽の要素も取り込んだサイケデリックで前衛的、左翼的メッセージに満ちた音楽スタイルを確立し、推し進めていった。ブラジルの反軍事政権への強烈な敵意を根源とするような音楽は社会主義者からも距離をおかれ、反政府主義活動のかどで投獄され、ロンドンへの国外追放にもあう。1972年ブラジルに帰国してからは、ブラジルの伝統的なスタイルへの回帰、とりわけアフリカにルーツを持つバイーヤ地方の文化に深く傾倒していったという。1980年代人気はヨーロッパ、アフリカ、アメリカなどへ飛び火し、国際的なポップスターとしての賞賛も集め、先述の「トーク・トゥ・ハー」などの映画でも用いられる様になる。
彼の声をなんて表現していいか分からないが、男性的であったり、中性的であったり、時には女性的に聴こえることがあったりする。言葉(この部分はポルトガル語が分からないのでハンデがあるが)、発音、声質、抑揚など「歌う」という行為の要素すべてを動員して歌っているのだ。だから彼の歌は「歌う、唄う、詠う、謡う、謳う・・・」いずれの漢字もあてはまるように聴こえるのかもしれない。
私も実はまだ「カエターノ初心者」。その初心者がおすすめするのが、カエターノの後期~最近の全貌を知ることができる、ベストアルバムといっていい、「CAETANO SINGS」。「トーク・トゥ・ハー」のサントラではないが、ウォン・カーヴァイ監督「ブエノスアイレス」で使われた「ククルクク・パロマ」は勿論収録、影響を受けたビートルズの「レディ・マドンナ」、「ヘルプ」も収録されている。
ほとんどが、ギターの弾き語りで、ジルベルトを継ぐものと称されるゆえんが理解できる。
CAETANO SINGS
カエターノ・ヴェローゾ / / ユニバーサル ミュージック クラシック
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そしてJAZZファンにもきっと気に入るアルバムは、カエターノが初めて全曲英語で吹き込んだ「異国の香り~アメリカン・ソングス」。「ソー・イン・ラヴ」、「煙が目にしみる」、「ボディ・アンド・ソウル」など、JAZZのスタンダードから「ダイアナ」、「ラヴ・ミー・テンダー」まで、アメリカン・ソングがぎっしり詰まっている。かれは、ライナーノートで、このCDに収録されているアメリカのミュージシャン、「シナトラ」、「マイルス・デイヴィス」、「プレスリー」、「ニルバーナ」などについてコメントをし、「ブラジル音楽の発展に影響を与えたのはアメリカの音楽なんだ。・・・・・音楽をより楽しく、豊かにしてくれたアメリカのポピュラー音楽への感謝の方法を見つけたいと思っている。」と述べている。その一つの答えが、まさにこのアルバムである。ブラジル色、カエターノ色に染め上げられたアメリカン・ソング集。
異国の香り~アメリカン・ソングス
カエターノ・ヴェローゾ / / ユニバーサル ミュージック クラシック
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ブラジルの大地で独自の音楽を育んできたジョアンとカエターノ。彼らの唄が、まだ一度も訪れたことのない南米の地に私を誘う・・・。
