
モントリオール映画祭グランプリ受賞作、滝田洋二郎監督「おくりびと」を観てきました。
主演は本木雅弘、広末涼子。そして山崎務、吉行和子、笹野高史、余貴美子などの芸達者が脇を固める。「おくりびと」とは、遺体を棺に納める「納棺師」のことである。
この作品の企画は、主演の本木が、ある本で「納棺師」という仕事を知り、遺体を納棺前にふき清め、仏着を着せて棺に納めるという一連の作業が職業として存在するということに大変衝撃を受けたことに始まるという。
ストーリーは、オーケストラの解散でチェロ奏者の夢をあきらめ、故郷の山形に帰ってきた大悟(本木雅弘)は好条件の求人広告を見つける。しかし、それは遺体を棺に収める仕事、「納棺師」であった。最初は戸惑っていた大悟だったが、さまざまな境遇の別れや人間模様と向き合ううちに、納棺師の仕事に誇りを見いだして成長してゆく姿を描いた感動作。
一見近寄りがたい職業、そして人間の死という重いテーマを扱っているが、軽妙な笑いも織り混ぜ、深刻になりがちなこの種の映画の空気を救っている。驚いたのは、本木がみせる見事な納棺の所作とチェロの演奏。衣擦れの音までが聞こえる流れるようなその納棺技術。明日からプロとしてやっていけるのではないかと思えるほどの鮮やかさ。チェロは、勿論アテレコであるが、一部実際に彼が弾いていると思われる場面があり、相当修練を積んだことがみてとれる。
そして映画本来のテーマである死とそれを職業とするということ。「生きるということ、死ぬということ、職業とは、家族とは、絆とは、そして自分はどう旅立ちたいのか、そしてどう送られたいのか・・・」などいろいろなことを考え、目頭を熱くしながらこの映画を観ていました。
「死を意識すれば生が浮上してくるということでしょうね。別れを知れば、出会いという輝きがよりかけがえのないものに感じられると。つまり死に接することによって、今自分が生きていることの尊さを再認識できると……。大げさですがそういうことだと思います。」とは本木の言葉。
シニア世代のみならず、これから送らねばならない家族を持つ若い世代の人にも必見の、多分、今年の日本映画の中でベスト・ワンに位置づけられる映画であろう。
主人公ら家族を捨てて、一切の音信がなかった父親。その死を知り、旅立ちの納棺をする主人公。その父親が愛した「パブロ・カザルス」のレコード・コレクションが画面にさりげなく映り、チェロの演奏が全編に通奏音のように流れる。
音楽は、「冬のソナタ」や「崖の上のポニョ」などに代表されるスタジオ・ジブリの作品などを手がけている日本を代表する作曲家の「久石譲」。チェロという人間の声に近い音域を持つと言われている楽器が奏でる音楽がぬくもりと尊厳さを感じさせる。
伝説のチェリスト、「パブロ・カザルス」。カタロニア出身のカザルスは,故国スペインがフランコ独裁政権の支配下に入って以降,二度と故国の土を踏まず,またフランコ政権を承認する国では絶対に演奏会を開かないという信条を曲げなかった。その彼が、ケネディ大統領の招きでホワイトハウスで演奏した歴史的ライヴが、「パブロ・カザルス/鳥の歌」である。冷戦下の緊張が極限まで高まる中、ケネディの招きを受けたカザルスは,世界平和の実現の祈りを込め,信条を曲げてその招きに応じたのである。ここに不滅の名演が生まれた。
鳥の歌~ホワイトハウス・コンサート
カザルス(パブロ) / / ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
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【追記】
10月11日俳優の峰岸徹氏(65)が亡くなった。「おくりびと」では主人公大悟ら家族を捨てて出奔した父親役で出演。回想シーンではぼかしの映像のため表情は分からなかったが、死者としての演技が遺作となった。無言、瞑目、不動の演技であったが、その表情にそれまでの父親の人生の凝縮が見て取れる名演技であった。なにかの予兆であったのか。合掌・・・・。
【追記2】
峰岸さんの劇映画としての遺作は、大林宣彦監督「その日のまえに」(未公開、11月公開予定)。監督の作品20数本に出演し、私生活でも家族ぐるみの付き合いのあった大林監督が、峰岸さんの命が残りわずかなことを知っていたこともあり、出演のシーンを追加し、7月下旬に峰岸さんの自宅を少数の撮影スタッフとともに訪れ、自宅前で1時間ほどかけて撮影したという。男同士のちょっと泣けるいい話・・・。





















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