
定年退職して3年余が過ぎたが、意識の上で変わってきたことがある。それは、何かというと、表現が適切でないかもしれないが、「自然を意識する」ということである。空が見たい、雲を見たい、海を見たい、花を愛でたい、風に吹かれたい、森を歩きたい、雨の里山をドライブしたい、櫻を見たい ・・・・。ごくごく些細で普通なことなのである。
こう書くと、まるでなにかを達観したり、悟ったりしたかのようであるが、実際はそのまったく逆である。仕事、子育てなどの頚木(くびき)が取れたためか、現役時代よりは間違いなく好奇心の対象は拡がり、かつ旺盛になっている。そしてその対象が、現役時代は多分そんなゆとりすらなかった「自然」に対して、今は強く向いているのであろう。いかにビジネス、仕事という上手な隠れ蓑、言い訳の中に、自然に親しむという人間本来の本能、習性を置き忘れてきたかが分かる。いずれ誰しも土に帰るのだが、その時期への折り返し点はとうに過ぎてから、やっと気がついたという愚かさを恥じるばかり。
奈良・吉野の山奥の集落に生まれ育ち、吉野に暮らしながら、吉野の自然と交歓するような短歌を詠む歌人がいる。「前登志夫(まえ としお)」。2008年4月に惜しくも82歳でなくなったが、西行と同じように吉野を愛した「前登志夫」のエッセイを、友人の薦めもあり読み始めた。
ムササビ飛び交い、魑魅ざわめく夜。かすかな風がそよぎ、杉木立ちに木洩れ日の射す昼。霊異の地・吉野に生まれ育ち、暮らし続ける現代短歌界の巨匠が、静かな生活の中で、四季の移ろい、花鳥の奥に山河慟哭の声を聴く。現代文明の中で見失った人間の魂を呼び覚ます山住みの思想と、詩心溢れる好随筆集。―いったい人間存在のゆたかさとは何であろうか。 (裏表紙コピーより)
存在の秋 (講談社文芸文庫)
前 登志夫 / 講談社
彼のようにゆるぎない「立ち位置」を定めることは、私などにとっては、到底至難の技であろう。現在も、そしてこれからも、好奇心や煩悩の対象となるものが、つぎつぎと出てくるであろうが、惑いながら、揺れながら、ブレながらも、きっと最後まで我が「立ち位置」を探して、もがいていくのであろう。
そして、それにつれて、音楽の嗜好にも変化がでてきた。いままではあまり繰り返して聞くことがなかったアーティストに魅かれ、再評価することも多くなったからである。その一人が「エグベルト・ジスモンチ/Egberto Gismonti」である。前登志夫と同じような立ち位置を感じてしまう音楽家。

【 エグベルト・ジスモンチ/Egberto Gismonti 】
ブラジルが誇る世界的なギタリスト&ピアニスト、作曲家。1944年リオ・デ・ジャネイロでレバノン人の父とイタリア人の母の間に生まれ、生粋の音楽一家に育った。5才にしてリオの音楽学院に入学、ピアノを学び、1967年に奨学金を得てウィーンに留学。その後、パリで「ナディア・ブーランジェ」に師事。1969年からフランス人女優・歌手「マリー・ラフォーレ」のオーケストラの指揮・編曲で欧州でも認められると、イタリアのサンレモ音楽祭にも出場したりした。しかし、自分の音楽の本質はブラジルにあると悟ると、帰国。祖国ブラジルの様々な音楽的伝統を研究し、1969年にファーストアルバム”Egberto Gismonti”をリリース。1977年にはアマゾンのジャングルに入り込んでインディオたちと交流し、音楽の啓示をうけ、独自の音楽を追及する。1989年発表の”Dança dos escravos”では、ピアノ、ピアノのポリフォニーを弦楽器で表現するために開発された多弦ギター、6弦、10弦、12弦、14弦の4本の異なるギターを使ってその天才的なギター・テクニックを見せつけた。そのほか、ピアノ、オルガン、シンセサイザー、管楽器など様々な楽器を自由自在に操るマルチ・ミュージシャンとして、また優れた作曲家として、活躍を続けている。ジスモンチが千手観音ともいわれる由縁である。そのクラシック、ジャズ、ブラジル音楽が融合したような独自の世界を表現する。(オフィシャル・サイトなど参照)
ブラジルのアマゾンの奥深くで原住民と共に生活し、音楽の啓示を受けた直後、ジスモンチが自身のルーツとジャズを独特の手法で融合させたアルバム「輝く陽/Soldo Meio Dia」。ジスモンチの音は、深い精神性と、野生性、そして大自然が持つ雄大さを持ち合わせており、魂の奥深くに響き渡る。 満天の星空に煌く星々が生み出すような音色、大地から湧き上がるような躍動感溢れるリズム、豊かな感性、音楽への情熱、一音一音に注がれる彼の熱い想い。ジャンルの壁を超えた創造的でユニークな1977年リリースの一枚。ジャケットの見開きには、こんな彼自身のコメントが書かれている。
「・・・ The sound of the jungle,its color and mysteries;the sun,the moon,the rain and the winds;the river and the fish;the sky and the birds,but most of all the integration of musician,music and instrument into an undevided whole.」
(密林が奏でる音、その色彩と神秘さ/太陽、月、雨と風、川と魚、空と鳥達/そのすべては、ちょうど音楽家、音楽と楽器とが分けることが出来ないのと同じように、渾然一体となっている。)
輝く陽
エグベルト・ジスモンチ / ポリドール
ジスモンチは、パーカッションのナナ・ヴァスコンセロス、サックス奏者のヤン・ガルバレク、ギターのラルフ・ターナー、ベースのチャーリー・ヘイデン等とジャンルやカテゴリーを超えたグローバルな音楽活動をしているが、JAZZベーシストでデュオの名手、チャーリー・ヘイデンとのデュオの名盤がある。ピュアなサウンドに心うたれるデュオの傑作ライブ「In Montreal」。1989年モントリオール・ジャズ・フェスティバルでのライブ。
In Montreal
Charlie Haden & Egberto GismontiEcm
私はやっと、彼の音楽のとば口にたどり着いたばかりである。 彼に興味のある方は以下の「YOU TUBE」をどうぞ。
1979に録音された3人の鬼才によるアルバム『マジコ』に収録されたジスモンチ作曲の名曲。ここではジスモンチは12弦ギターを弾く。ガルバレクは北欧のコルトレーンと呼ばれるノルウェーのサックス奏者。
エグベルト・ジスモンチ/チャーリー・ヘイデン/ヤン・ガルバレクとのコラボ演奏動画「マジコ」 (Magico)
もっと見たいですか?10弦ギターを駆使して「Dança dos escravos」を演奏するジスモンチの映像も。
エグベルト・ジスモンチの超絶ギターテクの動画 ”Dança das Cabeças”
表題曲「Maracatu」は81年発表の『Sanfona 』、89年のチャーリー・ヘイデンとのデュオの名盤『In Montreal』に収録されている代表曲のひとつ。ジスモンチはピアノを弾く。80年の映像。
ジスモンチのピアノとパーカッションのコラボ ”Maracatu”
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