
(写真;ラミダス猿人「アルディ」の骨格化石と復元像)
「発見!ラミダス猿人 ~440万年前の人類~」。先日、NHK-Bsハイビジョンでこんな番組を放映していた。実は高校時代、考古学をちょっとかじった私としてはこんな番組にも関心があるのだ。アメリカの科学雑誌「サイエンス」が発表した2009年最大のニュースは、エチオピアで化石で発見され、復元された440万年前の猿人、「アルディピテクス・ラミダス/Ardipithecus ramidus/ラミダス猿人」のニュースであった。「ラミダス猿人」は、1992年12月にエチオピアのアファール低地で、東京大学の「諏訪元」教授らを中心とする国際調査チームによって発見され、チームによる大規模調査で百数十点の骨の化石がさらに発見され、その後15年という時間をかけて慎重に解析・復元が行われた。番組はその解析・復元のプロセスに密着取材したドキュメンタリー番組である。この猿人は発見された地層の分析から、約440万年前に生きていたことが判明、性別は女性と推定、愛称を「アルディ」と名づけられた。身長120センチで体重50キロ、脳の大きさは、チンパンジーよりやや小さめの300~350ccくらい。これは「ルーシー」の愛称で有名な「アウストラロピテクス/Australopithecus」から、人類の進化の系統樹をさらに100万年以上さかのぼることができるとされる。
復元された「アルディ」は、「ルーシー」より大きく、チンパンジーに近いが、チンパンジーとは大きく違う特徴を持っていた。それは、人類を他の動物と区別する、ある決定的な特徴、すなわち「直立二足歩行」ができることだった。しかも、その足はチンパンジーのように、枝を握ることができる形になっていた。すなわち樹上生活と直立二足歩行の両方ができたらしいのだ。現時点で人類最古の祖と考えられる「ラミダス猿人」はチンパンジーでもないヒトでもない新しい「種」だったのだ。彼らは森で暮らし、木登りをする一方で、二足歩行も可能だった。かくして、人類や他の類人猿はチンパンジーから進化したという定説は、「アルディ」の発見で、否定されることになった。いやあ、大いに知的好奇心を刺激される番組であった。(Wikipedia参照)

この番組を見ながら、かってデュッセルドルフの東約15kmにある「ネアンデルタール博物館」を訪れたことを思い出した。エッセンで開催された展示会の帰り道、アウトバーン脇の「Neanderthal Museum」の標識に気がつき、もしやと思って降りてみたら、案の定「ネアンデルタール人」が発掘された谷に建てられた博物館であった。ネアンデルタール人の化石が見つかったのは1856年、ダーウィンの進化論、「種の起源」が発表される3年前のことである。場所はネアンデル谷にあった「フェルトホッファー洞窟」。実際にネアンデルタール人が発見された洞窟は、落盤か何かで完全に破壊されてしまったとのことで、ここの場所で発見されたわけではないようだ。
「ネアンデルタール人/ホモ・ネアンデルターレンシス/Homo neanderthalensis」は、約20万年前に出現し、2万数千年前に絶滅したヒト属の一種であり、我々現生人類である「ホモ・サピエンス/Homo sapiens」の最も近い近縁種とされている。かつて、ネアンデルタール人は、我々ホモ・サピエンスの祖先とする説があった。しかしながら、化石から得られたDNAの解析結果から、ネアンデルタール人は我々の直接の祖先ではなく別系統の人類であることがほぼ明らかになった。

ドイツをはじめ北ヨーロッパには古い地層が残っているところが多く、ライン河やネッカ河などの何万年もの侵食によって、そこだけは深い谷や急峻な崖になっているところがある。ネアンデルタール渓谷もそんな一つのようだ。そして、そのような所から映画「ジュラシックパーク」の話の発端となった古代の蚊などが封入された琥珀やアンモナイトの化石などが多く採集されるという。写真は30年ほど前、ドイツ出張時、その幾何学模様の美しさに惹かれ、妻のために買い求めたアンモナイト?の化石を加工したイアリング。
そして映画は「マイケル・クライトン」の原作で、抜群のエンターテイメント性で大ヒットした「スティーヴン・スピルバーグ」監督「ジュラシック・パーク」(1993年)。

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ところで、話は飛ぶが、科学や技術の進歩・進化に比べ、この国の政治の進歩・進化は一体どうなってしまったのだろうか。「塩野七生」氏に、「国のあり方、政治のあり方、質の向上を古代ローマ帝国に学べ!」と諭されるようでは本当に情けないのだが ・・・・ 。
「北京原人」や「ネアンデルタール人」などはロマンを掻き立てるためかミステリーや冒険小説になりやすいようだ。「ネアンデルタール人」を題材にした冒険小説に、タイトルもズバリ「ネアンデルタール」がある。
古人類学者のマットとスーザンは、恩師がタジキスタンでの発掘中に行方不明となったとの連絡を受け、米国メリーランド州にある先史調査研究所に向かった。ふたりはそこで、25年前のネアンデルタール人の頭蓋骨を見せられ、恩師が今なお生息するというネアンデルタール人を追って行方不明になったことを知る。捜索に協力するふたりに、人類の起源をめぐる冒険がはじまる。

ネアンデルタール (ソニー・マガジンズ文庫) ジョン ダーントン / ソニーマガジンズ
われわれの生活に欠かすことのできない音楽。この音楽は、いつごろ、どのようにして人類の歴史に誕生したのだろう。こんな疑問から出発した一冊のユニークな本がある。認知考古学の第一人者で、ヒトの心の進化を追究しつづける「スティーヴン・ミズン/Steven Mithen」著「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」である。
音楽は進化の過程でことばの副産物として誕生したというのが、これまでの定説であった。しかし、ミズンは、初期の人類はむしろ歌いながら会話をしていたはずだとし、彼らの音楽様のコミュニケーションを「Hmmmmm」と名づけ、絶滅した人類「ネアンデルタール」はじゅうぶんに発達した咽頭と大きな脳容量をもっているので、この「Hmmmmm」を使うのにふさわしい進化を遂げていたという。そして20万年前の地球に満ちていた彼らの歌声を再現する。狩りをし、異性を口説き、子どもをあやす時にも音楽様の会話をし、「太古の地球は音楽に満ちていた」という光景は、なかなか夢があって楽しそうではないか。

歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化 スティーヴン ミズン / 早川書房
「猿人」をタイトルに持つJAZZといえば、もうこれしかない。「チャールス・ミンガス/直立猿人」。人間の進化をテーマにした4章からなるJAZZ叙事詩。

直立猿人 チャールス・ミンガス / Warner Music Japan =music=
デキシーランド~スイング~ビ・バップ~ハード・バップ~モード~フリー ・・・ と流れるJAZZの進化のなかでエポックメイキングなアルバムといえば、「マイルス・デイビス/Miles Davis」の「カインド・オブ・ブルー/Kind Of Blue」(1959年録音)があげられよう。マイルスはこのアルバムで、今日もJAZZの主流となっている演奏スタイルの「モード」という奏法を確立した。このアルバムには、その後も「モード」を追求し続けた「ビル・エヴァンス/Bill Evans」と「ジョン・コルトレーン/John Coltrane」というJAZZの二人の巨人も参加している。

カインド・オブ・ブルー+1 マイルス・デイビス / ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
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