今年のノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家、「カズオ・イシグロ」氏が、7日、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで授賞の記念講演を45分にわたり、行った。その中で、代表作「日の名残り」(1989年)について、シンガー・ソングライターの「トム・ウェイツ/Tom Waits」の曲「ルビーズ・アームズ/Ruby’s Arms」を聞いたことが、完成のきっかけになったなど、創作のエピソードを披露したという。
『 ・・・ 88年3月、33歳の私は、初めて日本が舞台ではない「日の名残り」を書き終えたところでした。晩年になってから、自分が誤った価値観を守ってきたと気付く英国の執事の物語です。何度も読み返し、ある程度満足しましたが何かが足りない。その時、ソファに横になってトム・ウェイツが歌う「ルビーズ・アームズ」を聞いたのです。曲の半ばに、胸が張り裂けそうだと歌うのを聞いて、まだやるべき仕事が残っていると気付きました。小説の最後で、感情を抑えてきた執事の心のよろいにひびを入れねばならないと考えました。 (毎日新聞2017年12月8日配信より)
『 ・・・ 私はこれまで、いくつもの場面で、歌手の歌声から重要な教訓を学んできました。』影響を受けた歌手に、ボブ・ディラン、ニーナ・シモン、レイ・チャールズ、ブルース・スプリングティーなどを挙げたという。『言葉では表現できない感情ですが、歌手の歌声にはちゃんとあって、私は目指すべき何かをもらったと感じます。』 (12月12日 朝日新聞朝刊より)
日の名残り (ハヤカワepi文庫)
カズオ イシグロ/Kazuo Ishiguro (著)、土屋 政雄 (翻訳)
早川書房
【 Ruby’s arms ルビーの腕 】
「♪ I will leave behind all of my clothes 僕の服は全部置いてゆこう
I wore when I was with you 君と一緒にいたころ着ていた服は全部
All I need’s my railroad boots 必要なのはこのブーツと
And my leather jacket 革のジャケットだけ
As I say goodbye to Ruby’s arms ルビーの腕にさよならするんだ
Although my heart is breaking 僕の心は張り裂けそうなのに
I will steal away out through your 君が眠っているうちに出ていこう
Blinds for soon you will be waking 君はすぐに目を覚ましてしまうから
The morning light has washed your face 朝の光が君の顔を照らしているが
And everything is turning blue now いまは何もかもがブルー
Hold on to your pillow case 君の枕カバーを抱くことくらいしか
There’s nothing I can do now 今の僕にできることはない
As I say goodbye to Ruby’s arms ルビーの腕にさよならすれば
You’ll find another soldier きっと君は誰か別の戦士を見つけるだろう
And I swear to God by Christmas time クリスマスまでにはきっと
There’ll be someone else to hold you ほかに君を抱きしめてくれる人はいる
The only thing I’m taking is 僕がもらっていくものはただ一つ
The scarf off of your clothesline 君の物干しロープにかかっているスカーフさ
I’ll hurry past your chest of drawers 君のたんすや
And your broken window chimes 壊れている窓のチャイムはパス
As I say goodbye さよなら
I’ll say goodbye さよならするからね
Say goodbye to Ruby’s arms 本当にさよなら ルビーの腕
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
厳しい生き方を貫いてきた男の心が悲しみにくれる歌、「ルビーズ・アームズ」は、5作目のアルバム、「ハートアタック・アンド・ヴァイン/Heartattack and Vine」(1980年)および「アサイラム・レーベル」で’73年~’80年に発表した6枚のアルバムからの選曲によるベスト盤、「アサイラム・イヤーズ/The Asylum Years 」に収録されている。
ハートアタック・アンド・ヴァイン(紙ジャケット仕様) Limited Edition, Original recording remastered
トム・ウェイツ
ワーナーミュージック・ジャパン
アサイラム・イヤーズ/The Asylum Years
トム・ウェイツ
ダブリューイーエー・ジャパン
「Tom Waits – Ruby’s Arms」
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