他流試合(4)
ドラムの三戸部氏がマイクを取って進行役を務める。「ではお客様に歌って頂きます。Kさんどうぞ」。ボーイがKさんのリクエストした曲の楽譜を3人のプロに夫々手渡した。「曲は、思い出のサンフランシスコ」。
Kさん、なかなか上手い。カラオケなどで歌い慣れているんだろうなぁ。素人っぽさはあるけど音程もリズムも外さないから、なかなか良い。但し、途中ピアノの間奏の後の歌い出しのタイミングが分からず、ピアノにもう一度入るところをリードして貰ってたが。この辺りがカラオケと違って生バンドで歌う難しいところ。
「続きまして、エリナさん、どうぞ」。彼女は正面の席に陣取っていた何人かのグループの1人。譜面を3枚持ってステージに登場。自ら演奏者達に渡した。とても慣れている様子。そして、シックなワンピースがとても良く似合う、日本人離れした美人だ。若しかしたらハーフかも知れない。年の頃、40歳前後と見た。
歌い始めると、これが何とも言えない大人の世界。スローなテンポで、むせび泣くように歌う。声は少しハスキー掛っていて、ヘレン・メリルのよう。上手過ぎ。僕は隣のAに小声で聞いた。「何者?」「良くは知らないけど、プロのジャズ・シンガーやプロの卵達がこの店の常連と聞いてるから、彼女もきっとそうなんだろうよ。ここで練習してから赤坂や六本木の店に行って9時過ぎからステージをやる人が結構いるらしいから」。彼女は2曲歌った。
次の人も同じグループの中の女性。この人も先ほどのエリナさんに勝るとも劣らないジャズ・シンガーだ。アップテンポの曲に、途中スキャットのアドリブがとても素晴らしかった。
その後も1人2曲ずつ何人もが歌った。男性客も2~3人歌ったが、揃いもそろってプロはだし。Kさんが言った。「こんなに上手い人ばかりだとは知らなかった。最初で良かったよ」。第1ステージが始まって、かれこれ小一時間経っている。
三戸部氏が言った。「第1ステージ最後は、サックスのAさんとご友人の神童さんのドラムで締めて貰いましょう。えーと、曲は何にしましょう?」。Aが答える。「バイ・ミア・ビスト・ドゥ・シェイン」。僕は三戸部氏と入れ替わってドラムの位置に着いた。ピアノの坂口さん、ベースの秋元さんは勿論プロ。観客席もプロ乃至プロの卵のシンガー達。前も後もプロばっか。ドキドキもんだ。こんな状況、緊張しない方がおかしいよ。



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