他流試合(5)
Aのアルト・サックスがソロでスロー・バラードを奏でる。坂口さんのピアノがそれを追い掛けるように優しい音の彩を加える。「バイ・ミア・ビスト・ドゥ・シェーン」の前奏だ。僕のドラムと秋元さんのベースは、途中アップ・テンポなリズムに変わるまでお休み。Aはいつも坂口さんと一緒に演奏しているから息がぴったり。Aのサックス、なかなかいいよ。
2人の掛け合い演奏に僕はうっとりしながら聴き惚れた。サックスのプロとアマチュアの境い目を僕は良く分からないが、全く彼を知らなかったら、プロだと思っただろう。Aの奏でるサックスの音色や間やビブラートが凄く耳に心地よいのだ。
40年前の彼は、僕らの学生バンドで、やはりテナー・サックスを吹いていたのだが、何せ曲が8ビートだから、強く激しいサックスの記憶ばかり。こういうむせび泣くようなジャージーでメロディックな演奏に僕は驚いた。更に僕は、演奏者も客席もプロばかりの中で、ガチガチになることもなく楽しむが如くに演奏出来るAが凄いと思った。
Aと言えば、当時数ある学生バンドの間でも名の知れた男だった。ビートルズが初来日し武道館でライブした頃だから、正にビートルズ全盛期。加えて日本ではベンチャーズ人気も最盛期だったから学生バンドの構成も彼らを真似て、殆どのところがエレキ・ギター2本、エレキ・ベース1本、それにドラムの4人組だった。
だが僕らは、サックス1本、キーボード1本、エレキ・ギター1本、エレキ・ベース1本、そしてドラムの5人組。構成がユニークなのと、Aのサックスが強烈な音とリズムでエキサイティングなステージを作るので、大変に目立った存在だったのだ。
彼を一際目立たせた曲は、Aのサックスをフィーチャーした「ピーターガンのテーマ」。ミディアム・テンポの少し重めのロックのリズムに乗せた、唸るようなサックスの音色。どこで演奏してもこの曲は受けた。記憶に残るもう1曲は「キャラバン」。唸り声のような音色を出せるサックス奏者は、学生の中では彼だけじゃなかったか。
彼のお蔭で僕らのバンドは目立つ存在だった。そんなことから、ブルー・コメッツが「ブルー・シャトー」で日本レコード大賞を取った翌2月、彼等の凱旋コンサートの前座を僕らのバンドが務めたこともあった。
あの時、僕らの最初の曲が始まり幕が開いて行くと、客席は「キャー、キャー」「ワー、ワー」の大騒ぎ。但し、幕が開き終わるまでの30秒間だけ。ほんの少しだが超人気グループのステージを味わった。ブルコメと僕らのバンド構成がよく似てたから間違えられたのだ。それにしても観客は現金なもので、僕らがブルー・コメッツでないと分かると、会場全体が水を打ったように静かになってしまったっけ・・・・・。
「バイ・ミア・ビスト・・・」の前奏も終わりに近付き、いよいよ僕やベースも加わる、4ビートのアップテンポに変わる直前まで来た。唇が渇く。喉が渇く。スティックを握る手が汗ばむ。心臓も高鳴る。ウーン、これは健康に良くない!


0 comments
下記のフォームへの入力が必要となります。
コメント欄