虎ノ門のビートルズ(3)
第1部のステージが終わった。「アップルビーツ」、リズム感もサウンドもボーカルも、そして迫力まで、本当に素晴らしい。僕はビートルズ初来日時の公演(於武道館)をテレビに噛り付いて聴いていたので、案外とコーラスが下手なビートルズを知っているから、僕は「アップルビーツ」の歌うビートルズには大満足なのだ。
序ながら、その武道館ライブで一番酷かった曲は、東京でレコーディング&リリースすることになっていた「ペーパー・バック・ライター」だ。特にジョージのファルセットのコーラスが音程が取れず不協和音になっていた。だから、「アップルビーツ」をビートルズより上手いビートルズと言ってるのだ。
ステージから降りて、「アップルビーツ」のメンバーが全員僕等のテーブルに挨拶に来てくれた。「素晴らしい!」と僕は彼等の演奏を称えた。「ありがとうございます」「Kさんや神童さん、それにA子さんにも来て貰って本当に嬉しいです」と「ポッツ」。こんなに喜んでくれるならしょっちゅう来てもいいかな。
第1部の途中から客もかなり増えて満員に近い。「それにしても、満席に近いじゃないか」と言うと、「サム」が「こんなこと初めてです。神童さんが来てくれたからですよ、きっと」などと可愛いことを言う。「いやー、君達の人気が定着して来た証拠だよ」。
僕は聴いていて、正直、彼等は前より確実にレベルアップしていると思った。東京のど真ん中で、ビートルズの生演奏で売っている店だよ。客も相当なビートルズ・マニアが多いだろうから、かなり鍛えられる筈だよ。
でも彼等の良いところは、「どうだ!」と客に勝負を挑むようなステージでなく、大好きなビートルズをお客さんと一緒に心から楽しもうという雰囲気で演奏していることだろう。「ズー・ジョン」・レノンの何とも心温まる歌い方。僕は好きだなー。少しはにかみながら一生懸命にギターを弾くジョージ・「キャップ」。
彼等が他のお客さんのテーブルに挨拶に移動して行ったところで、「今日は何ステージまでOK?」とK君に聞くと、「犬が一人で待っているから、2ステージ目が終わったところでお先に失礼する」と言う。それって若しかして、僕等に気を使ってるの?でもA子はどうなんだろう。「第3ステージまで聴いて行きたい」。意見が一致した。
2ステージが終了。「それじゃぁ、お先に」と言ってK夫妻は帰って行った。僕等のテーブルは僕とA子の2人だけになった。「じゃぁ、少し飲もうか」「いいですねぇ」。
第3ステージのラスト・ナンバーは「ポッツ」の「ロング・トール・サリー」。この曲はその昔、リトル・リチャードのヒット曲として知られ、その後プレスリーなども歌ってるが、ポール・マッカートニーのキーは彼らより遥かに高いので、超ハードなロック・ナンバーとして有名だ。しかし、「ポッツ」の「ロング・トール・サリー」は、それをも超える。
その余韻に浸りながら2人は、後ろ髪を引かれる思いで虎ノ門「ムーンドッグス」を後にしたのであった・・・。


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