息子と犬
28歳になる息子が半年振りにお盆休みで帰省した。息子はこの夏で札幌勤務が丁度満5年経った。どういう訳か、久し振りに息子を見たら随分昔のことを思い出してしまった。息子と犬との愛情物語ならぬライバル物語である。
我が家は5年前までは30年近くの間、3世代家族6人がひとつ屋根の下に暮らしていたのだ。我が息子からすれば、上に3歳違いの姉がいて、僕等両親がいて、祖父母がいたのだから生まれてこの方ずっと家では一番下っ端だったのだ。
そんなことからか、彼が小学校に入った頃、犬を飼いたいと言って聞かず、遂に根負けした母親が子犬を買い与えた。彼は子犬を物凄く可愛がっていたが、犬はあっという間に成犬になってしまった。
シェットランド・シープ・ドッグ(通称シェルティー)と言って、毛の長いコリー犬を小型にしたような犬だ。異常な食欲の犬だったから、半年も過ぎた頃には体重が15kgを超え、1年後は20kgを軽く超え体格も大きい。犬の品評会などで優勝するシェルティーは、12~13kgだと言うから、我が家の犬の成長スピードの異常さが分かろうというもの。
娘や息子は母親に「これ、本当にシェルティーだったの?コリーの間違いじゃないの?」と聞く始末。当然、小学校1~2年生の息子が扱うには、大き過ぎ重過ぎて彼の手に負えない。勢い犬の面倒はカミサンの役割となって行った。
こうなると犬は現金なもの。一番面倒を見てくれる人になつくもので、もう息子の言うことは一切聞かなくなる。犬の考える家族の序列でも、犬は息子の上位だと思ってる。
夏、息子が自分部屋でクーラーを効かせて勉強していると、犬は彼の部屋のドアを前足で蹴飛ばす。すると息子がドアを開ける。犬は挨拶もせず当然のように部屋に入って行って横たわるのだ。
逆に犬が息子に「早く部屋に連れて行ってクーラーを付けろ」と部屋のドアを蹴飛ばしながら息子に吠える時もある。その時はやはり息子がその通りにしてやるのを何度も目撃した。我が家では犬が息子に命令するのだ。
たまにカミサンが面白がって、食卓で息子の隣に犬も椅子に座らせ、テーブルに息子の好物のハムステーキを2人に振舞う時がある。ある時、犬は自分のハムステーキはさっさと食べてしまって、隣の皿にある息子の食い掛けのステーキを狙ってガブリとやった。
アッと言う間もない早技とはこのこと。息子は自分のを取られた怒りから思わず「バカ」と言って犬の頭を叩いた。それでも犬は一度咥えたハムは決して離すことなく、彼を無視してペロッと食べてしまった。
それを見ていたカミサンが息子をからかうつもりで「まあ、可哀そう」と言って犬を抱き締めたから、さぁ大変。息子は我慢し切れず、犬への怒りと悔しさと嫉妬で感情が堰を切ったかのように泣き喚いたのだった
犬にも見下されていたそんな幼かった息子が、札幌で一人暮らしをしながら5年も会社員が務まっているのだから、これは天に感謝しなければならないだろう。


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