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営業初体験(2)

この日早速、社長のSさんや部下の方達と親しい僕が保険商品の説明を行なった。しかし僕は40年もの長い間、金融機関に勤めてはいたが、システムを作る立場だったから、営業という仕事は一度もやったことがない。保険の営業をやるのは、これが初めてだ。当社社長のJTは逆に営業でここまで来た人だから、さぞやハラハラして僕のプレゼンを聞いていたことだろう。

10年前から日本の保険業界も外資が続々上陸して来て、激戦の様相を呈して、凄まじい価格競争に突入していた。そんな厳しい競争の真っ只中、当社は最初の商品として「医療保険」(入院保険など)を売り出したのだ。この分野は外資系保険会社が価格と内容、並びに、シェアで圧倒的優位に立っていた。

だが、当社の医療保険は、無駄を徹底的に排除し、且つ、生協等モラルリスクの少ない優良マーケット用なので、外資系の更に半額の値段なのである。多分、今日本で一番安い医療保険だ。担保内容も入院費用(1万円/1日)だけでなく、いざという時の死亡保険金は勿論、毎日3千円の休業補償まで出るいい保険なのだ。

僕は一生懸命説明した。
「・・・日本で一番安くて一番補償内容の厚い保険です」
JTも補足してくれた。
「今、私どもの保険会社は私も入れて10名で運営していますが、団塊世代中心で運営していますから、人件費としては一部上場企業の役員さん1人分で賄えてしまうんです」
安さの秘密を僕も負けじと付け加えた。
「保険システムを作るのが私の仕事なんですが、チームに男性がもう1人いまして、彼も還暦過ぎ。あと2人の女性プログラマーは家庭の主婦ですから、週1日2日来て貰ってますが、基本的には家で仕事して貰っています。契約社員と呼んでいますが、分かり易く言えばアルバイトということになりますかね。ここまで掛ったシステム開発費(僕ともう1人の人件費は除く)は、2人のアルバイト代40~50万円だけなんです。普通に外部のソフトハウスに頼んだら1千万以上にはなりますよねぇ。2桁安いこのシステムが既にちゃんと稼働していて、日々の契約計上事務が行われているのですから驚きでしょう?この辺りも保険の安さの秘密だと思っています」
僕は、言ってからシマッタと思った。だが手遅れだった。
「いやー、神童さん、耳が痛いですよ。社員にはもっと工夫しろ!工夫が足りない!っていつも言ってるんですがねぇ」とS社長さん。
そうだよ。ソフトハウスの社長さんを前に言うことじゃないよ。社員の方達もみんな頭を掻いている。

少し間があってS社長さんが口を開いた。
「折角のご説明でしたが、半額だとか安いとかいくら言ってもなかなか若い組合員には届かないんですよ」
案の定、僕の説明は感度最悪だったか。
「僕はね、組合員が健康な一生を送れるように様々な医療機関や薬局、或いは、民間の介護サービスなどとタイアップして、例えば、保険証をICカードにして、そこに人間ドッグや入院や治療時の電子カルテが書き込まれ、それを提示すればどの病院でも、どの診療所でも、直ぐに患者の病歴や普段の健康状態も分かる。はたまたその保険証を提示すれば救急車でもタライ回しされることはないという保証の付いた仕組みを作りたい」
S社長はJTと僕の目を交互に見ながら熱っぽく更に続けた。
「また、鬱病が今大きな問題ですけど、そういうことの啓蒙や予防をこの健保組合でやれないか、とかいろいろ考えてみたい。そういうことを一緒に考えて行ってくれませんかね。ご提案の医療保険はそれでもいざという時の備えとして用意しておく、そんな風に考えたいんですよ」

30万人を束ねる執行部のお考えは大したものだ。さすがにJTが引き取った。

「前の会社でも社長が同じように考えていましてねぇ、様々なことに着手したんですよ。幾つかの病院とタイアップして何とか医療と保険をもっと有効に結び付けられないかとトライして来ていますし、各企業の社員のメンタル・ケアに関する研修や様々なコンサル、或いは、直営のデイケア施設を幾つか持って、地域に貢献したり介護資格取得支援などを行なって来ておりますので、そういう資源も動員して皆さんと一緒にやらせて貰うことが出来るのではないかと思います」
「それは、もう、ホントに助かる話です。宜しくお願いします」とS社長。

あとは会食となり、美味しい中華料理に舌鼓を打ち、和やかな内にお開きとなった。営業で伺った側が勘定を持つのが普通なのだが、S社長の部下の人が既に済ませており、頑として譲らない。仕方なく御馳走になって帰って来た。保険営業はなかなか難しい。

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