プレミアムエイジ ジョインブログ
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また一つ

先日、ある会合のあと、僕は一人で新宿西口のバーに行った。そこは10年前、僕が新宿に勤めていた頃、よく使っていたバーだ。狭いながらカウンターの他にもボックス席がある。人の良いマスター一人だけの、大昔のトリス・バーを髣髴とさせる飲み屋だ。

果たして、まだやっているのか?何処だったっけ。少し迷ったがあったあった。10年振りでもやっていた。こういう時って、昔の友達に会えたようで嬉しいもんだね。繁華街の通り沿い、地下1階の店「ステディー」。

ドアを開けた。おお、超満員!昔そんなこと一回もなかった暇な店。世の中本当に不景気なの?

マスターに、僕が顔を出したアリバエ証拠をと思い
「マスター!混んでるからまた来るわ」と声を掛けた。
「アッ!神童さん。ちょ、ちょっと待って」
マスターが入り口までやって来た。
「いやー、ご無沙汰でした。お一人?」
「うん」
「大丈夫。今席空けるから、絶対帰んないでよね」

暫くして奥の方から「どーぞ、神童さん!」とマスターの声がしたので入って行った。カウンター席を1つ空けてくれたようだ。そこに座ったら自動的に水割りが出て来た。そう、ここではいつもウィスキーだったな。

それから20分もしない内に、みんな帰り支度を始めた。どこかの会社の団体さんらしく、全員が一気にいなくなった。

「マスター、久し振り。でも凄いねぇ、繁盛してて」
「ぜーん然。今日たまたま団体さんが来ただけでいつも、こういう感じ。オッといけねえ、折角神童さんが来てくれたのに」
「なかなか俺が店には来れなかったのに、コンサートには何度も来てくれて、本当にありがとうね」。

日比谷野音、東京国際フォーラム、NHKホールと、僕が電話で声を掛けるといつも彼は来てくれたのだった。今度新宿から近いオペラシティーでライブをやるからと伝えたら、必ず行くと約束してくれた。「ステディー」というこの店に最初に僕を連れて来てくれたのはJSだ。

僕が仙台勤務の時、同じ仙台に赴任していたJSとは、業務部長と営業部長という関係もあり、お互い単身赴任だったこともあって、毎日のように夕食や飲み会は共にしていた。それ以来、公私に亘り付き合いを重ねている。その彼が仙台時代よりも前の新宿をテリトリーとする支店長時代から使っていた店ということで、彼が東京勤務に戻った時、僕を連れて行ってマスターに紹介してくれたのだった。

「今でもJSは良く来るの?」
「ええ。あの人も偉くなっちゃって、極くたまにですけどね、部下の方達を連れて飲みに来てくれますよ」
「そうだよな。今じゃ大専務さんだからねぇ」
「でもJSさんエライと思いますよ。自分だけ途中で帰らないで、部下の人達と最後の最後まで付き合うから」
本当に久し振りのマスターと2人だけ。そんな会話をしながら、懐かしさと嬉しさを胸にゆっくりな時間を過ごした。

そろそろ、いい時間だ。次の客が来たら、それを潮に帰ろうと思ってるのに、誰も来ない。終電時間が迫って来たから、「また来るよ」と言って引き上げた。

それから2週間後だった、「ステディー」の閉店通知が来たのは。まるで僕が最後に現れるのを待っていたかのように。また一つ、馴染みの店が消えて行った。

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