偶然×9=奇跡(5)
【偶然その5】―もしも、会社にバンドがなかったら、あり得なかった―
まだこの頃は、僕のドラムを聞かされる方は苦痛だとは思いもよらなかったが、この店でぶっつけ本番は旨くないな。どこか練習の機会が欲しいとは思った。
願えば叶う何事も。会社にバンドがあることが分かり、且つだよ、おあつらえ向きにドラマー不在と来た。職権で「俺にやらせろ!」となるのは自然の道理。合併新会社で、12月の社員懇親のクリスマス・パーティーを開催することも僕が即決した。
会社バンドはそのパーティーに向けて秋口から集中練習を開始した。男5人組、女性4人組のバンドだ。バンマスはO。エレキ・ギターとボーカルを担当。キーボード&ボーカルYa。エレキ・ベースY。サックスとボーカルM。そしてドラムスが神童。女性陣はボーカルとコーラスだ。
これも偶然だが、課題曲などみんなで演奏曲を決めた頃、あたかも僕等のために用意されたのかというタイミングで、会社から徒歩1分の場所に、練習が出来る音楽スタジオがオープンした。毎週1回平日の夜、会社バンドはそこで練習を開始した。1回3~4時間の練習だ。結構ハードな練習だ。
他のメンバーに比べ、一番遅れていた僕は(バンドの新入りだから当然と言えば当然)、秘かに、土日の休日、どちらかをこのスタジオを借りて自主トレに充てた。3ヶ月続けたお蔭で33年前を少しずつ思い出して行くことが出来た。それでもレベルは当時の6~7割までの回復が精一杯だった。やはり33年間の空白は想像以上に大きい。簡単に出来ていたことが、今はとっても難しいのだ。
クリスマス・パーティーが近付いて来ているので、あまり無理をせず、出来ない所は簡単なリズムに変えてやっと間に合わせることが出来た。社員300人を超す大勢の前での演奏。緊張もしたが、みんなで練習して来たことが目立ったミスもなく出来たことが嬉しかった。
このバンドで、「クーペ&Shifo」のミニ・コンサートの前座に出演させて貰ったりして、人前での演奏にも徐々に慣れて行った。
後々のことを考えると、自分の技能レベルをわきまえられる様になった点で、また、音楽の楽しさを再発見したという意味で、この頃の集中練習が大変役立ったと思う。会社バンドがなかったら、そして集中練習のチャンスがなかったら、流石のクーペも僕に「頼むから、もう店でドラム叩かないでくれ」って言ってただろう。
会社のバンド・メンバーは口に出してこそ言わないが、55歳過ぎの下手くそなオヤジ・ドラマーが入って来ちゃってどうしよう、と思っただろうな。今だから僕にも分かる。それにしちゃぁ、文句も言わずによく付き合ってくれたよな。みんなありがとう。


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