古い友人
大学時代、「ザ・ストレンジャーズ」というロックバンドで一緒にやっていたA君が退職して、7月末に、赴任先から千葉の自宅に戻ったとの便りが届いた。
彼は、40年前、ある大手食品会社に就職し、長い間研究所勤務となり、白衣を着て様々な実験や商品開発に当たっていたが、4年前、役員だったA君は、関連会社の社長として、東京から三重県四日市市に転勤して行った。
それまで、極く稀ではあったが、A君から「親しいジャズ・ピアニストと六本木の店でライブをやるので来い」と連絡が入るとその都度駆け付けて、俄かセッションをやったりして楽しんでいた。A君の担当はサックスだ。
当時、学生バンドの中でも、彼のサックスは秀逸の誉れ高く、学生の間では名の通ったサックス奏者だった。但し、その頃は、ジャズ・ロックのサックスだったが。
彼のテナー・サックスをフィーチャーした曲としては、「ピーターガンのテーマ」「キャラバン」「カミン・ホーム・ベイビー」などが人気だった。だが、何年か前、プロ・ピアニストの坂口氏と友達になって以来、本格モダンジャズに目覚め、サックスもアルトに変えて、坂口氏からジャズの指導を受け始めた。
そんな風に、忙しい仕事と、ジャズ・サックスを両立していたA君だったが、四日市転勤が決り、ジャズから離れざるを得ないことを大変残念がりながら赴任して行ったのだった。
だが、さすがはA君。「ジャズの道はヘビ」、ちゃんと四日市でもジャズ・ライブの店を見付け、毎週週末にはそこで演奏していたというから大したもの。
その彼が、やっと社長の任期が明けて晴れて退職。東京に戻って、これからは、ジャズとヨットに邁進するぞ、との喜びに満ちた決意表明の葉書が届いたのだった。
40年間も勤めた会社を辞めるのは、何処かに淋しさがあるものだが、彼の便りにはそれが全く感じられない。東京に戻れる日を指折り数えていた姿が想像出来る。いや僕等に一遍の淋しさをも感じさせないようにとの、彼なりの配慮なのかな。
その彼から、先日連絡が入った。「9月に、友人知人を沢山呼んで都内のライブハウスを借り切って、退職祝い、兼、シルバー・ミュージシャン・デビュー記念パーティーをやるから是非来て気楽にセッションやってよ」という。
聞けば、坂口氏も出るし、ベース、ドラムも坂口氏の仲間のプロ・ミュージシャンが揃うとのことだ。そうなんだ、A君はもうそういう人達と一緒に本格的なジャズを演奏しているんだ。そういう中に入って気楽にセッションを、なんて言われてもねぇ。
でも、再びA君と一緒に演奏出来ることは凄く楽しみだ。「ジャズの生演奏が最近凄く好きになったという人がいるので、その友人と一緒に行く」と返事した。結構広いライブ・ハウスが、超満員になりそうだと言う。彼の人徳と交友の広さだな。早目に行こうっと。


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