売り込み
珍しく家にいたら、電話が掛かって来た。家の電話はカミサンが出ることになっているのだが、カミサンが外出中なので、仕方なく僕が受話器を取った。
「もしもし、神童さんのお宅ですか?」
「はい、そうですが」
「私、神童さんと同じ高校の後輩で××という者です。随分前に先輩とお電話でお話しさせて貰ったことがあるのですが、覚えていらっしゃいますか?」
60歳過ぎて、徐々に記憶力に自信をなくして来ている身、もしかしてそんなことがあったのかも知れない。
「いや、申し訳ないけど覚えていないなぁ」
「そうですか。あのあと急に九州の方に転勤になっちゃって、その節は挨拶も出来なくて申し訳なく思っていました。今月初めにまた東京に戻って来ましたので、早速お電話させて貰った次第です」
ここまで来れば如何な何でも、何かの売込みだって分かる。
「ふ~ん。それはご丁寧に。九州は何年いたんですか?」
「はい、4年間でした」
「そうですか、随分気にしてくれてた割りには4年間一度も電話くれませんでしたねぇ」
「スイマセン。田舎であちこち仕事に飛び回っていたもので・・・」
「ところで、4年前はどの電話に掛けて貰ったんですかねぇ」
「自分の住所録に書いてあるこの同じ番号でしたが・・・???」
「それはおかしいですね。一年前引っ越した時に電話番号が変わってるんですがねぇ」
「ガチャ」
慌てて相手が電話を切った。本当は電話番号は変わっていない。
あとでこのことをカミサンに話したら、売り込みの電話はしょっちゅうらしい。
電話による売り込みで思い出した。まだ僕が係長の頃、同じ部署の後輩が会社で自分に掛かって来た電話に出たら、サラリーマン講座のような教材の売り込みだった。相手は、オバサンらしかったので、目上の人に対してそれなりの受け答えをしていた。
だが、丸っきり教材に関心のない彼は、
「折角のお話ですが、そういうのを買っても、多分自分は積んどくだけになるので結構です」
と断わった。そしたらそのオバサン逆切れしてこう捨て台詞を言って電話を切った。
「だから、あなたは出世しないのよ!ガチャ」
確かに彼は第一選抜からは漏れていたからカチンと来たが、一方的に電話を切られちゃ怒りのやり場も無い。受話器を叩きつけるように戻すことしか出来なかった、らしい。


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