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あの頃僕等にはマドンナがいた(5)

それから一年後、卒業を2ヵ月後に控えた頃、幾分やつれた表情のYを見掛けた。
「おう、どうした、元気ないね?」
「ちょっとここんとこ、落ち込んじゃっててね」
「またK子のことじゃないの?」
口から出任せに言ったら、大当たり。
「先週別れたんだ」
「え!!!」

軽く声を掛けたつもりが、ことの深刻さに簡単に別れるのも憚られ、Yを喫茶店に誘った。
「何があったんだよ。もう一年以上も仲良く付き合っていたと思ってたのに」
「やっぱり、彼女には俺なんか相応しい相手じゃなかったってことだと思う」
「高校の友達なんか、お前等2人のこと、本当に羨ましそうに言うよ」
「実はね、彼女は仙台出身だし、卒業後俺は多分大阪になると思うんだ」
Yの就職先は生保のリーディング・カンパニーに決っていた。
「そういう意味では、別れ別れになるので、俺、思い切ってプロポーズした」
「おう、そうか」
「俺は彼女、OKしてくれると思ってた」
「おう、そうか」
「だが、返事はノーだった」
「おう、そうか」
「今、結婚なんて全く考えられないんだってさ。まだ大学2年生だからって」
「おう、そうか」
「Yさんもこれから社会に出て、いろいろな人に出会うと、私なんかよりもっともっといい人が出来るかも知れない。だから、Yさんにとっても結婚はまだ早過ぎると思うの。私の気持ちを正直に言えば、Yさんは好きだけど、まだ結婚というのがピンと来ないの、だってさ」
「おう、そうか」
「おう、そうか、しか言えないのか、神童」
「他になんて言えばいいんだ」
「フーン、とか、それで、とかさぁ、言い様がいろいろあるだろが」
「それで?」
「やりにくいな。それで別れた」
「なんで?」
「3年後にもう一度プロポーズするって言おうと思ったけど、やめた。社会に出て3年、彼女も1年。それで気持ちが変わらなければ本物だと思ったんだよ。でもやめた」
「なんで?」
「もし気持ちが変わったら、3年間無意味に彼女を縛ることになっちゃうからね」
「なんで?」

「なんで、なんで?しか言わないのよ」
「お前が分かんないから、なんでって聞いてるんだ。お前ね、22歳にもなって、なんで高校生みたいなこと言ってるのよ。信じられないよ、全く」
「なんで?」
「今度はそっちが、なんで?かよ。お前の最大の欠陥は、強引さが抜け落ちてることだ。お前本当に彼女をものにしてるのか。キスくらいしかしてないだろう?」
「そんなこと関係ないだろう」
「大ありだよ。お前のプロポーズはね、断わられても美しく終わりに出来る程度に、気合の入っていないプロポーズなんだよ」
「・・・」
「K子、そんなお前の弱さに嫌気が差したんだな、きっと。元々お前の卒業を期に別れようと思ってたんだ。分かるよ、K子の気持ち」
「嘘だ!」

「断わられて、お前、なんで平気なの?3年間無駄に縛るかも知れないから別れただぁ?K子無しには生きられないなんて思ってもいないだろ。普通だったら、どんなことしても彼女にウンと言わせる方法を考えるよ。自分は大会社に就職決ってこの地を離れるけど、君はどうする?なんてプロポーズ、俺が女でもノー・サンキューだね」
「じゃぁ、どうすれば良かったって言うんだ」
「お前にとって就職と彼女とどっちが大事なんだ?」
「・・・、そりゃ、どっちもだよ」
「お前の問題はそこなんだよ。そりゃどっちも得られりゃいいよ。だけど今、どちらかの選択を迫られてるのに、お前はそれが分からない。いや、分かっていても真正面から受け止めようとしない。そこが問題なのさ。二者択一ならお前の答えは初めから就職なのよ」
「・・・」
「彼女を選ぶんだったら、幾ら大会社でも袖にして、仙台の会社に就職して彼女を選ぶ。卒業を待って結婚する。そんなシナリオを描くね。俺がお前なら」
「お前は俺じゃない!」
Yは怒りを前面に表して席を立った。感情と勘定を全部僕に押し付けて・・・

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