禁煙(3)
3年前の12月、会社内は喫煙ルーム以外、全面禁煙となった。それまでは、事務室は当然禁煙となっていたが、応接ルームなど外部から客が来た場合、灰皿を用意しても良いことになっていた。だから、僕等ベテラン勢の喫煙者達は、必然的に、客も来ないのに応接室で仕事をするようになっていた。
それが、今般の決定は応接室を含めて、決められた場所(喫煙ルーム)以外、例外なく禁煙となったのだ。さあ大変だ。組織の実力者達に喫煙家が多いため、「そんな決定に従えるか!」と、決定無視を決め込み相変わらず応接室で吸っている者も多かった。
それが、ある会議で問題になった。あるベテラン管理者Aに、30代の実力者、プロジェクト・リーダーのB君が噛み付いた。
「日頃の業務では、Aさんが我々社員に様々な指示を出して従わせるのに、そのAさんが、会社で決めたルールを堂々と破っておられるのは如何なものでしょうか」
「大体ね、喫煙所以外、全部禁止と言うのが行き過ぎなの。応接室のように隔離された部屋なら他の人に迷惑掛かんないんだから、そこで吸うのが何故いけないのかわからない」
「Aさんね、それはこっちが聞きたいですよ。会社の経営会議で決めたんでしょ?Aさんはそのメンバーなんでしょ?」
「だから、俺は賛成しなかった」
「Aさんが賛成かどうかなんて、関係ありません。経営会議で決めたことをそのメンバーが率先して違反してるのが問題なんです」
「・・・」
「上に立つ側の人は下に範を示す責任がある。そのAさんがそれでは、若い喫煙者にルールは守らなくていいよと言ってるようなものです。コンプライアンスって、決めたルールを守ることなんじゃないですか?」
このやり取り、どう見ても、B君に分がある。B君自身がタバコを吸うので彼の発言には説得力があった。Aさんも渋々「分かった」と言うしかなかった。
こういうことがあった後、僕等ベテラン喫煙組みは、これから正月に入るので、その間を旨く使ってみんなで禁煙に向けて努力しよう、となった。Aさん一人を悪者にしては可哀想だということでね。B君にああまで言われたんじゃ、ベテラン勢、スパッと禁煙して若手にカッコいいとこ見せなきゃ。
僕も正月休みに入った日から、禁煙を開始した。いや、しようとした。当時会社は12月30日の午前中までで仕事納めだった。その日の我が家の夕食は結構豪華になる。これは公務員だった父親のための恒例の行事だったのを踏襲したのだ。御用納めの日の夕食は一家揃って父親の一年のお勤めを慰労するささやかなパーティーなのだ。
当然、お酒を飲む。社会人になっていた娘にも息子にも飲ませる。どちらも飲める口ではないが、仕方なしに付き合う。カミサンは全く飲めないから無理は言わない。ちょっとでも飲ませて、僕が後片付けする羽目になることを恐れて。
気が付くと僕の右手にはタバコが!無意識のうちにタバコを吸ってる。お酒とタバコ、切っても切れない関係だね。どちらも旨い。「アッ、いけねー、禁煙するんだった。しょうがない。禁煙は明日からにしよう」。
我が家では翌大晦日の夜も、一年間家族が健康で過ごせたことを感謝する日だ。だから、また豪勢な夕食となる。「お酒とタバコは欠かせないね。禁煙は年明けと共に実行しよう」。
我が家では翌元旦も新年を祝うために、お屠蘇代わりに燗酒を頂く。で、タバコがなければ折角の燗酒が可哀想、となる。2日も3日も結局お酒がなくては話しにならない。即ち、タバコがなければ話にならない。
1月5日から会社なので、4日の日1日だけ禁煙しても意味ないよね。結局、正月は1日も禁煙せずに5日の朝会社に向かった。言っておくが、禁煙する気が無いのではなく、また、意志が弱いとかの問題では更々なくて、酒宴が重なる正月は禁煙するには向かない時期だったということ。
これが分かっただけでも大きな成果だと思う。何せお酒を飲むと、敵は無意識のうちに攻めて来るんだもの。だから、禁煙はGWにすることにした。


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