あるシステムの物語 5
即日、会社全体が合併に向けて走り出した。兵頭は梶と、事務とシステムの統合のこれからの進め方について本音の突っ込んだ意見交換を行なった。
「梶さんねぇ、実は事前に社長に提出した資料では、中央損保はシステム統合の最も難しい相手として×印で報告した会社なんだよ。だから、正直、1年でシステム統合をやり切るのは相当難しいと思わないといけなし、両社システムのいいとこ取りなんて、もう言ってられないと思うんだ」
「そうでしょうね。相手の事務もシステムも分からないんだから、それを把握するだけでも半年やそこら、あっと言う間に過ぎちゃいますしね」
「そこでね、普通は事務ありきで、システムを設計するんだけど、今回ばっかりはどうシステムを統合出来るか、それに合わせた事務にして貰いたいんだけど」
「分かりました。それで行きましょう。それから、兵頭さんには言いにくいんだけど、当社のシステムありきじゃなくて、最もシステム統合し易い形を選択しましょう」
「ありがとう。そう言って貰えれば、何とか道筋を見付けられると思う」
数日後、兵頭は社長室にいた。そこには河瀬社長と野際システム・ソリューション(通称NSS)の副社長の大下、それと兵頭の3人がいる。NSSは東都損保の大株主の野際証券グループの会社であり、兵頭達は過去30年に亘ってこことパートナーシップを結び東都損保のシステムを共同開発して来た。
野際証券は昭和40年代初めに、日本で最初に商用のオンライン・システムを成功させた輝かしい歴史を有するのだが、その技術者達が集まって別会社を作り、野際グループ会社として立ち上げた会社だ。システムの力は日本有数である。
NSSの大下福社長が河瀬社長に、NSSが過去手掛けたシステム統合事例をレクチャーする日だったのだ。大下が2つの事例を縷々説明し終え、河瀬に向かって言った。
「河瀬社長が仰るとおり、会社合併ではシステム統合が最大の問題です。それが旨く行くかどうかで合併の成否が決まると言って間違いありません。弊社も沢山の事例を経験していますから、是非弊社に今回のシステム統合を任せて貰えないでしょうか?」
「いや、会社合併に当たっては、まず当事者同士が主体的にやるものでしょう。NSSさんに当事者になって頂くつもりは全くありません」
河瀬は大下の申し出をピシャッと断わった。が、大下も粘る。
「それは分かりますが、私共も御社とは30年もの間一緒にやらせて頂きましたので、当事者の一人と考えて頂いても良いのではないかと思います。それに、システム統合となれば、兵頭さん達にとっては初めてのこと。私共には多くの経験とノウハウがございます」
兵頭には口を挟む余地が全く無い。河瀬が言った。
「そういうことも承知した上で、私はこの兵頭にやらせたいのです。システム統合が旨く行くも行かないも全てこいつ次第と決めておりますので」
会談は終わった。NSSの大下は提案を引っ込めて帰って行った。河瀬は兵頭にただ「そういうことだ」とだけ言った。兵頭は己に課せられたミッションの大きさに改めて胸が震えた。
「社長は俺を買いかぶり過ぎではないか?」「本当に俺に出来るか?」、兵頭の脳裏には様々な自問自答が去来した。そして決意した。「やるっきゃない!」。


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