クラシック・コンサート
前の会社で同期入社のある友人がいる。音楽には全く無縁の男。その彼が、3年前、「クーペ&Shifo」と、僕等おじさんバンドが、あのNHKホールで自前コンサートを開いた時、奥様とご一緒に聞きに来てくれたのだ。
何せ3,500名収容の大ホールだから、僕は、会社の同期は勿論、ありとあらゆる伝を辿って、観客動員をお願いしたのだった。
誠に失礼ながら、音楽に興味の無さそうな彼を初め、正直、当てにしていなかった人々が沢山駆け付けてくれたお蔭で、何と3,000名以上が集まってくれて、一大コンサートとなった。
それから1年後、彼の奥様から、お嬢様のピアノ・リサイタルのご案内を頂いた。彼はそんなこと何も言わないし、彼の娘さんが音楽家とは全く知らなかったから、またまた驚かされた。
ドイツに音楽留学しているが、一時帰国する機会に地元でコンサートを開くというものだった。ただ、残念ながら同じ日、僕の方もコンサートがあり伺うことは叶わなかった。
そして2年が経ち、遂にお嬢様のリサイタルに初めて伺うことが出来たのだった。場所は、埼玉県の嵐山(らんざん)。森のような広大な土地の中に「国立女性教育会館」という設備があり、会場となった講堂の入口には「引田明子の楽しいクラシックコンサート」と大きな看板が立掛けられていた。中に入ったら、600人収容のホールが超満員だった。
前半は、今年がショパン生誕200年ということで、「バラード第1番」「ノクターン」「バルカローレ(舟歌)」など、引田明子のピアノソロでショパンの曲5曲が演奏された。
僕は、中学の頃、曲の情感について決められた定説があり、それを暗記する音楽の授業が嫌いになり、以降クラシック・コンサートと言うものに殆ど縁が無かったので、こういう音楽を生で聴いたのは初めてに近い。そのせいか、或いは、演奏者が知人のお嬢さんだからか、不思議と音楽が素直に耳に入って来た。
僕も、ステージで演奏する側だから、聴衆の心を掴むというのがどれだけ難しいことか良く分かっている。その目で会場を見ると、1人で600人の心を完全に引き付けている。それは本当に凄いこと。
第2部は、ドイツで同じ街に住んでいる日本人女性バイオリンニストとの二重奏で2曲。2人は息ピッタリに演奏してくれた。アンコールでは僕も知っている「チゴイネルワイゼン」だった。クラシック嫌いの僕が、いいもんだなと思った。
演奏終了後、彼の誘いで、他の同期2人と共に打ち上げ会に飛び入り参加させて貰った。2年毎の定期演奏会として今回が5回目ということだ。いつも同じこのホールで開催して、今回初めて客席が満杯になり補助椅子を出す程だったらしい。継続は力。今や、嵐山町の文化財産となり始めているのだなと思った。
さすがに、闖入者は、ただ飯・ただ酒は許されないようで、急に司会者から呼ばれ挨拶を強要された。彼と自分との関係を紹介した後、本音を言った。
「明子さん、本当に素晴らしい演奏会をありがとうございました。お蔭様で、クラシックは嫌いだった私も今日、急に好きになりました。それにしても、音楽に全く縁の無いお父様に、プロ・ピアニストのお嬢様がいるというのが、未だに信じられません。本当に親子なんでしょうか?」


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