あるシステムの物語15
ところが、この新システム統合計画書の承認を得るために開いた事務・システム小委は、揉めに揉め、深夜2時に至って、やっと承認されたのである。
何故揉めたのか。それは、中央損保側のシステム担当役員や中島肇たち、事務・システムの執行部は、今回の方針変更を基本的に納得していなかったからだ。
まず、冒頭、中島が言った。
「従来方針で行き詰ったのは、『入金ベース』精算システムの当社システムへの移植開発(東都損保側責任)が致命的に遅れたことが理由だと、まず明確にして貰いたい。そこをハッキリさせないと次の議論へ進めない」と。
兵頭がすかさず反論した。
「中島さんねぇ、『入金ベース』開発チームがギブアップしたから方針変更するのではないですよ。彼等は1~2週間の遅れがあるが、これは必ず取り戻すし、取り戻せると言っているんですから。ここまで、計画の他のテーマもその程度の遅れが出ているのは同じですよ。中央損保側の開発テーマもね」
「いや、こちらサイドの作業は遅れの内に入らないと報告を受けている」
「ここまでは、苦戦続きは事実ですが、大した遅れは出ていないと言えます。少なくとも、致命的遅れを来たしたと言うことではありません。問題はそこではなくて、このまま行って、残り5ヶ月強で本当に間に合うかと言うことです。
統合したシステムが本当に正しく動くのか? どこまでテストをしたら間違いを全部洗い出せるのか? とんでもない所に影響が出ないのか? 誤りの修正を含めて間に合わせられるのか? ということでよ」
「そんなことは、半年も前に充分検討して『行ける』と判断したことじゃないですか?」
「今回の計画は、お互いのシステムの詳細が良く分からない中で、人間の臓器移植みたいなことを、手探りで進めているんですよ。当初想定通りに行く訳ないじゃないですか! 節目節目で確認や見直しは不可避だということも共通認識だった筈です。」
「そんなことは言われなくても分かっています。部下達から当社側の作業は間に合うとしか聞いていませんので、基本的に方針変更する理由があるとすれば、兵頭さん、それはそちら側の作業が旨く行かなくなったからなんじゃないでしょうか?」
「中島さん! この時期まで来て、あっちだこっちだはやめてくれません? システム全体が旨く動かなきゃ一蓮托生なんだから。ちゃんと、御社の現場SEの声を聞いて下さいよ! 彼等も、ここまでやってみてたけど、普通のシステム開発と違ってテスト工程がどれほどになるのか見当も付かないと不安を抱いています」
「テストの目途が立たないなんて、当社のSE達からは聞いていない」
「テスト時間が決定的に不足しているとの思いは、御社の現場SEの皆さんと、当社のSE共通の心配なんですよ。このまま行けば早くて12月中頃からシステム・テストに入れると思うが、3ヶ月ばかりのテストで4月の新会社開業・システムの本番を迎えることになります。中島さんは胸を張って大丈夫と経営陣に言えるのですか?」
「・・・」
「半年間やったけど、残念ながら、まだお互いのシステムの詳細が良く分からないのが現実です。そんな中で取り敢えず必要なシステムの開発を進めているが、果たして本当にこれで良いのか、システム全体の整合性が保てるのか、という懸念が消えていない上に、その懸念を解消するためのテスト計画の全貌を明確に出来ないということが致命的だと言っているんです。5か月余りしかないこの時点で、見通しもなく、成算もなく闇雲に突っ込むということは責任上出来ないでしょう?」
その遣り取りを聞いていた兵頭の部下の柳原が、憤懣やる方ないという面持ちで発言した。
「一寸宜しいですか。中島さんはこの4日間、何をやっていたんですか! 我々はですねぇ、御社のSEの皆さんと一緒に、5ヶ月余に迫った合併会社開業に向けて、次善の策でも当面の策でも、どうやったらシステム統合を間に合わせられるか、それこそ寝食も惜しんで詰めて来ました。なのに中島さんは、この方針の変更は東都損保側の責任だというストーリー作りに専念していたという訳ですか!」


0 comments
下記のフォームへの入力が必要となります。
コメント欄